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「和臣く〜ん。やだ、また小坂井さんとケンカしてるの?」
ハチミツよりも甘ったるい声を出して、近づく女の子。和臣と同じクラスの早川知夏さんだ。
「べつにお前には関係ないだろ、早川」
和臣がそう言っても、早川さんはかまわずに彼の腕に自分の腕をからませる。
ショートヘアの私とは正反対の、ロングでサラサラの髪をなびかせる早川さんは大人っぽくて可愛い。そうされると和臣も無下にできないらしく、困ったようにしつつも腕はそのままだ。
早川さんはなぜか勝ちほこったような顔で私を見て、さっきよりも大きな声で言った。
「そんなことよりさ、あっちでみんなとお話しよ! 駅前にできたリアル脱出ゲームの遊び企画立ててるんだ〜」
……あれって絶対、私への当てつけだ。
和臣に関して気にくわないことの残りひとつは、これ。なぜか和臣はモテるのだ。
そりゃ、背が高くてスポーツも勉強もそこそこできるし、何より精悍な顔つきは男らしくてカッコいいんだよね。それにくわえて老舗菓子屋の跡取り息子。女の子たちが放っておくわけがない。
でも世の中の女の子たち、だまされちゃあいけない。その男は、性格が悪いのだから。
ちなみに私はモテるのかって? ……それには触れないでほしい。
(なによ、人のことをそんなことって。べつに和臣なんか、くれてやるわよ)
早川さんからの痛い視線攻撃を受けて、いやーな気分になった私は和臣と目が合う。すると、和臣は、鼻でフンと笑ったのだ。
うわぁ! 本当にいやなやつ!
「この、女ったらし! 桐生屋の名が泣くよ!」
「何い?」
情けなくも捨てゼリフのようなことを言ってしまい、居心地悪くなった私は背を向ける。
スタスタ廊下を歩くなか思うのは、いつものこと。
あーあ、和臣なんて、大っきらい!
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