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◇ ◇ ◇
「あんたたち、毎日飽きもせずよくやるねぇ」
「きーちゃん、そんなに呆れなくても……」
教室に戻った私は、友達のきーちゃん(本名・飯塚希和子)に、さっきの和臣との対立に関するグチを言っていた。
高校から仲良くなったきーちゃんには、私と和臣の関係はバカらしいとよく言われる。きーちゃんは、サバサバ系女子なのだ。
「だってさ、あいつが悪いんだよ。会うたびに私をバカにしてさ」
「それは、おたがい様でしょ? 蜜花も桐生くんのこと、けっこうズケズケ悪く言ってるじゃん。あれ良くないよ」
「う……」
まるでお母さんに叱られているみたい。たしかに……と小さく心の中で反省する。
最後の女ったらしはたしかに言い過ぎたかな。今度はナンパ野郎と言っておこう。うん。
「だってさ、もう条件反射みたいなものなんだよ。和臣との仲って」
「お父さん同士も、仲悪いんだっけ?」
「うん。私たちよりもさらに悪いよ」
同じ商店街にいるのに、顔を合わせればケンカばかりの私と和臣のお父さんたち。
幼なじみのくせに相性悪く、現在も客の入りや新商品の売れ行きなんかで張り合っていたりする。それを見守る商店街のみなさんの視線は、生ぬるい。
「なんで蜜花のお父さんと桐生くんのお父さんって、仲が悪いの?」
「あれはね、もう根底から相性が悪いんだよ。水と油、犬猿の仲。……でもね、親のことがなくたって、私があいつをきらいなことには変わりないからね」
「まったく、蜜花は変なところで頑固だなぁ」
きーちゃんには呆れられても、私はその意見だけは変えなかった。過去のあのことは、きーちゃんにも言ったことはない。
あれは、小学二年生のときだった。
下校時に和臣が、私に「ランドセルにいいもの入れておいたから」とニヤニヤ笑いながら言ったのだ。何だろう、とランドセルをのぞいて驚いた。そこには、大量の和菓子の包装紙ゴミがあったんだから。
中身のないそれは、まんじゅうやきんつばのカスをベタベタにくっつけていて、中でぐちゃぐちゃにされていた。
和臣はお店のゴミを、私のランドセルにつめたのだった。最悪だった。
(あんなことがなければ、仲良くやろうと思ってたのに……)
泣く泣くランドセルのゴミを捨てたときの悲しみは、今だって私の心を苦しめている。
それからだ。私とあいつが、仲が悪くなったのは。
顔を合わせれば、幼稚な言葉でケンカをし合うお父さんたち。そんな二人の関係をコピーしたかのように、私たちの仲は険悪になった。
「まぁ、それはいいとして」
きーちゃんが、話題転換するため口を開く。
「今日、蜜花と帰れないから」
「え、なんで?」
「ぶ・か・つ。私、弓道部に入ることにしたから」
「わ、すごい! カッコいい!」
キリッとしたきーちゃんに弓道は、すごく合う気がする。想像してみる。……うん、カッコいい!
「弓道部かあ。すごいなあ」
「蜜花も何か、部活に入ればいいのに。まだ五月だし、体験入学とかさ」
「私は家のお手伝いのほうが楽しいから、いいよ」
「お手伝いが楽しいなんて、蜜花は本当にお菓子が好きなんだね。あ、それなら家庭科部とかは? 手芸もやるらしいけど、料理やお菓子作りけっこうしてるらしいよ」
「うーん。お菓子作りよりも食べることの方が好きだしなぁ」
「あはは、蜜花らしいや」
じつはお菓子作りも好きだけど、今はあまりしていない。弟の瑛太が私よりも、もっと上手に作ってしまうからだ。ようは小さな嫉妬というわけで。
(ま、べつにいいんだ。私は作るよりも食べる派なんだよ)
しかしそうなると、帰りは一人かぁ。
頭の中にふと、してみようかなと思っていたことが浮かんできた。
いいかな。でもやっぱり、したいし……我慢できないし……。
(うん。やっぱり今日、決行しちゃおう!)
そう決めて、私はこっそり笑った。
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