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第2話 おかしなお菓子
帰りに途中下車をしたのは、いつもは通り過ぎる小さな駅だった。その駅のすぐ前にあるコンビニエンスストアへと、私は一人寄り道をする。
自動ドアをくぐり抜け、カウンターにいる若い男性店員の「らっしゃっせー」という気の抜けた声に軽く頭を下げると、そそくさと奥へ足を向けた。
たどり着いたのは、チルドケースの向かいにある、うるわしきスイーツコーナー。
(うわぁー、おいしそう〜)
私の目の前にあるのは、和菓子コーナーだった。
素朴なまんじゅうやどら焼きはもちろん、てらてらと蜜が光るみたらし団子、いちごが魅力的な大福に、ならんで可愛らしい三色団子。そのどれもが、私の目を楽しませて魅了した。
そう──私の今日の目的は、この和菓子たちなのである。
(前から一度、和菓子を思いっきり食べてみたかったんだよね)
なにせうちは、和菓子の老舗「桐生屋」を目の敵にする洋菓子屋さん。おやつにはケーキやクッキーなどの洋菓子が当たり前で、和菓子などめったに食べられるものではなかったのだ。
その反動か、たまーにこうして食べたくなるときがある。
お父さんにバレたら絶対にネチネチ言われそうだけど、人間、食に対する欲望は抑えられないのだ。桐生屋で買うわけじゃないから、いいよね。
私は手にしたカゴに、気になる商品をどんどん入れていった。
(抹茶クリーム入りどら焼きとか、おいしそう。こっちはかりんとう饅頭……うーん、香ばしい香り! わぁ、この大福『パンだるま』とのコラボじゃない、可愛い〜)
うきうきと調子に乗って、カゴに商品を次々と入れてしまう。食べきれるかというよりも、もう買うことが目的になっているような気もする。
すると、棚の向こう側にもお客さんがいることに気がついた。逆側はたしか、洋菓子コーナーだ。その人もカゴに商品をたくさん入れているけれど、中身はケーキやエクレア、クッキーだった。
(こんなところで買わなくても、うちで買えばいいのに)
なんてつい、洋菓子店の娘らしいことを考えてしまう────が。
「……え!」
カゴから持っている人物へ視線を移して、目を丸めた。
「か、和臣!?」
「蜜花! なんで……」
そこにはなんと、私の宿敵である和臣がいたのだ。おたがいに棚越しに、指をさし合わせてしまう。
和臣は私のカゴを凝視すると「なんで、そんなに和菓子を買ってるんだよ?」と痛い質問をしてきた。つい、しどろもどろになる私。
「こ、これはお客さまへ出すのを、親に頼まれて……」
「お前んち、洋菓子屋なんだからケーキでも出せばいいじゃないか」
「わ、和菓子好きな人が来るらしくて……」
「へー。お客に出すお菓子を、わざわざ途中下車してまでどこにでもあるコンビニで買うのか?」
「うっ……」
か、和臣のやつ、なんで名探偵ばりに推理してるのよ! 負けじと私も応戦した。
「そっちこそ、なんで洋菓子ばっかカゴにあるわけ!?」
「あ……えーと、これは手土産だ。この近くに友人がいてな」
「へー、どこの誰よ? 和菓子屋のあんたが、わざわざ洋菓子ばっかり買って手土産にする、その友人とやらは」
「くっ……」
なぜか和臣もひるんだような顔をする。
……もしかして。
……ひょっとすると……。
「和臣……あんた、もしかして」
「蜜花……お前、まさか」
同じ穴のムジナ──そんな言葉が、頭によぎった。
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