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むかしむかし、あるところに一匹の小さなくろねこがいました。
名前はギャムレット。
ギャムレットは大人になってもあまり大きくならず小柄なねこでした。
そしてギャムレットはにんげんのことが大好きでした。
にんげんはいつもぼくにやさしくしてくれる。
おいしいごはんもくれるし、いっしょにあそんでもくれる。
ギャムレットはほんとうに、にんげんが大好きだったのです。
しかし生まれてまもないギャムレットを拾ってくれたにんげんの家族は、ギャムレットがおとなになるまえにみんな事故で死んでしまいました。
ギャムレットはとても悲しみました。三日三晩泣きつづけました。
けれど三日も何も食べないでいたのでギャムレットはとてもおなかが減りました。やせ細ったギャムレットが歩いているのを見てかわいそうに思い、拾い上げてくれたのは家族で歩いていた中の男の子でした。
家族は自分の家にギャムレットをつれて帰り、ギャムレットはそこで新しい家族としてむかえられたのです。
そこではおとうさんも、おかあさんも、ギャムレットを抱き上げた男の子もとてもやさしく、ギャムレットはまたとても幸福な時間を過ごしました。
しかしこの家族もまた、その少し後に事故でみんな死んでしまいました。
ギャムレットはまたとても悲しみ、大粒の涙を三日三晩流し続けました。
三日三晩何も食べないでいたのでギャムレットはおなかがすき、あたまはふらふらとしてさまよい歩いていました。
そんなギャムレットを見て、ご飯をくれたのは小さな女の子でした。
女の子はギャムレットにご飯をやり、それから酷く汚れていることに気づいて自分のアパートにつれて帰りました。
女の子はおかあさんと二人暮らしです。
おかあさんはギャムレットのことを一目で気に入り、女の子の提案を受け入れました。ギャムレットをまた新しい家族を持ったのです。
女の子もおかあさんも、とてもギャムレットをかわいがってくれました。
ギャムレットはとても幸せです。
しかし数日後、女の子とおかあさんは事故にあって死んでしまい、またもギャムレットはひとりぼっちになってしまいました。
ギャムレットはとても悲しくて、三日三晩のどをからしても泣きつづけました。
それから泣き止むと、ギャムレットはおなかがすいていましたけれど教会へ行きました。家族のみんないつもしんでしまうことに、ギャムレットはぎもんをもったのです。
ギャムレットはとびらのすきまからしのびこむと真っ暗な教会の中をゆっくりと歩いていきます。
それからまえのほうにまでいくと、てんしさまにたずねました。
「てんしさま、どうしていつもぼくの家族は死んでしまうのですか?」
「それはおまえが死神だからだよ」
てんしさまがそうこたえます。
「しにがみ?ぼくはしにがみなんですか?」
「ああ。そうだ。だからおまえがおとずれるさきの家族はみんな死ぬのだ」
「そんなのいやだよ。ぼく、しにがみなんかになりたくない」
そう言ってギャムレットはぼろぼろとなみだを流しました。
「だが、おまえはそうしたさだめのもとにあるのだ」
「いや、いやだよ。ぼく、みんなと暮らしたいんだ」
ギャムレットは泣きつづけました。
そのようすを見て不憫に思ったかみさまがいいました。
「わかった。ではギャムレット、きみをしにがみからかえてあげよう」
「ほんとうですかかみさま?」
ギャムレットはうれしくて、思わずとびあがりそうになりました。
「だがねギャムレット、おまえはひとを裕福にはできない。ひとからなにかものをうばうようなかたちでしか、存在できないんだよ」
「どうしてですか?」
それを聞いてギャムレットは悲しくなってたずねた。
「そういうふうにできているからなんだ。こればかりはかみであるわたしでも、どうしようもないのさ」
「なんとかできないんですか?」
「もしおまえがそれを否定するのならば、お前は存在できなくなってしまうんだよ」
ギャムレットはそれを聞いてこまってしまいました。
みるみるうちに目がうるんでいき、いまにもまた泣き出しそうです。
「泣くのはおよしギャムレット。わかった、ではこうしよう。おまえはひとからなにかをうばってしまうが、それを命ではなくお金にしてあげよう」
「お金?」
「ああそうだとも。そうすれば、おまえはひとからうばう存在として在り続けられる。それに家族も死なないだろう」
「ほんとう?」
「ああ、ほんとうだとも」
「ありがとう、かみさま!」
ギャムレットはよろこびました。
そしてギャムレットはかみさまのおかげで、しにがみからびんぼうがみになりました。
ギャムレットは教会をでると夜道を歩きます。
ギャムレットはうれしさのあまり胸がいっぱいでしたが、しだいにおなかがすいてきました。
「おなかがすいたなぁ」
ギャムレットはおなかをぐうぐうと鳴らしながらそうつぶやき、歩きつづけました。そのときひとりの酔っ払いの男が歩いてくると、ギャムレットを見つけました。
たいそうやせ細ったその姿に同情して、男はなにかたべるものはないかとポケットの中を確認しました。しかしそこには何もなく、けれどねこをそのままの状態にしておくのはあまりにかわいそうにおもえました。
「よし、うちにくるか?」
男の問いかけにギャムレットは応じました。
男の家は町のはずれにありました。
平屋建ての一軒家はぼろくて狭く、へんなにおいがしました。
男は台所へ行って冷蔵庫を開けると、ソーセージを一つ持ってきてギャムレットに差し出しました。
ギャムレットはそれをむちゅうで食べます。ほんとうにおなかが減っていたのです。
「よく食べるにゃんこだな。おまえ、寝るところはあるのかい?」
ギャムレットはくびを横に振りました。
「そうかい、なら、うちに住むかい?」
ギャムレットはうなづきました。ほんとうはうれしくてとびあがりそうでした。
「そうかそうか、ならおまえは今日からおれの家族だ」
男はギャムレットの頭をなで、ギャムレットは心地良さそうにゴロゴロとのどを鳴らしました。
ギャムレットはとても幸せでした。
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