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 カチ、コチ、と古時計の音が響く部屋で、よしのは死んだはずの恋人と向き合っていた。 「……どうして海棠さんに?」 「あの人は、僕らの事情も知っているし、僕みたいな存在にも抵抗無い人だから……直接、よしのに会うことは良くないと思ったんだ。あれ以来、もう会えないものと思っていたのにまた会うことがあったら、今まで頑張って来たのがゼロになっちゃうでしょ?」  家の事情でお互い好きでも付き合うことは出来ず、別れた直と再会したのは二年前、入社した年のことだ。  離れていた時間を埋めるように何度も会って、体を重ねて、幸せな心の内とは裏腹に体はなぜか衰弱し仕事中に倒れるまでになった。  母から彼が既にこの世には居ない事実を知らされ、当時はまだ結婚していなかった海棠たちを巻き込み眞里絵に怪我を負わせ、それでも彼と別れようとは思えなかった。  共に逝ってもいいとさえ思ったのに、地震で墓石の下敷きになりかけたよしのを庇い、彼は去ってしまった。
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