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「頑張って来た、って……知ってたの?」
膝に手を握り締めてよしのが言うと、彼は眉をひそめた。
「ごめんね。……全部知ってるよ。いつもお花やいろいろ供えて墓参りしてくれてたのも。僕のことを思い出してくれてたのも。僕が諦めたんだから、自分ももう前に進まなきゃいけない、って思って頑張ってくれてたんでしょ」
ずっと堪えていた涙が溢れた。ぼろぼろと頬を伝う涙を見て、彼は悲しげに顔を歪める。
「ごめんね。拭ってあげたいけど、それはもう、出来ないんだ」
「……どうして?そこに居るのに、触れちゃいけないの?」
「ここに、このホテルの中に居れば、姿が見えるというだけ」
バッグからハンカチを出して、よしのは顔を押える。
「……あたしがこうなると思ったから、直接会わずに、……海棠さんになにを伝えさせようとしたの?」
「奴は、辛かったんだ。萩原が事あるごとに、自分には直が居るから、と心の中で思うのが」
「……どういうこと?」
先刻、堤が淹れて来たロイヤルミルクティーが二人の間で湯気を立てていた。一口飲んで海棠は話を続ける。
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