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「生きている男性と結婚して、子供を生んで、彼女の両親は孫に会って。でも、自分とではそれが出来ない。そういうことですか?露木様が仰りたいことは」
「……あの……」
黙っていたよしのが、おずおずと手を挙げる。
「あたしが、思う幸せは……そういうのじゃないです」
「と、仰いますと?」
「会社に行って、……失敗したり、先輩に怒られたりすることがあっても、時々は誉めてもらえたり、気を遣うことはあっても、同僚の子たちとお喋りして笑ったり、眞里絵さんとコンビニ行って新しいお菓子買ったり……そんな、ちっちゃいことがあたしの、幸せです」
それを聞くと直はひどく悲しげな表情を浮かべた。堤はそれを横目に見つつ、なるほど、と呟く。
しばらく目の前のティーカップに視線を落としていた直は、顔を上げ、よしのに微笑みかける。
「だったら、やっぱり、僕が一緒じゃ無理だね。このホテルに居るだけじゃ、コンビニも行けないし」
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