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「――――小さな幸せ。……」  話を聞いた眞里絵は呟き、海棠は黙って眼を伏せる。 「そこでわたくしは席を外しましたので、その後のことは分かりませんが」  ティーカップに新しいお茶を注ぐ堤に眞里絵はたずねる。 「それで?二人はまだ部屋に?」 「は。なにかカードゲームなどはないかとフロントに内線が入りましたので、ウノとトランプをお持ちしましたが」 「……二人でウノとトランプ?」  それはずいぶん不毛で果てしないものに思えて眞里絵は首を傾げる。 「ええ。お二人で。ゆっくり明日の朝まで過ごされるおつもりなのでしょう。ああ、海棠様ご夫妻には先にお帰り頂くようにお伝えして欲しいと言付かっております」 「朝まで、って……ここに泊まるのか?」  黙って聞いていた海棠が顔を上げ、堤は、はい、と頷く。 「泊まるってお前、生きてる者と死んだ者が」 「海棠様。ここは『ホテル万華鏡』でございます。その必要のある方に、ひとときの安らぎを提供する、そのような場でありたいと思っております。そこには宿泊費以外の代償は一切ございません」
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