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「百年先までご予約のないこのホテル万華鏡に二組もお客様がお泊りになるのは、……眩暈がするほど考えても過去に無かったことでございます。支配人兼従業員兼受付会計ドアマン……すべてをひとりでこなすわたくしにとっては有り難くも忙しい夜になりそうで、本日万が一これ以上飛び込みのお客様がいらしてもお断りしなくてはなりません。まあ、実際のところその心配は、人工衛星が今夜このホテルに落ちることを恐れるのと同じくらい無用の心配でございますが」  カウンターの立て型一日カレンダーを確かめるように置き直し、そう、と思い出したように彼は呟く。 「心配と言えば、わたくしには一点だけ気にかかる点がございます。それは、ただ『巻き込まれたついで』に当館にお泊りになるお客様はおられないということです。……なにしろ、当ホテルは必要のあるお客様以外の眼には留まることはありません。関係者とはいえ海棠様があのハガキを確かに受け取られ、内容を判読し、萩原様に伝わることを恐れてかそれを伏せていらしたにも関わらず奥様まで今日ここにおいでになったということは、わたくしには先程の人工衛星並みの奇跡……あぁ、こういうところがウザいと海棠様は仰るのですね。確かにその通り……いや、今はその話をしているのではなく……つまり、露木様、萩原様だけでなく、海棠様ご夫婦にも何か」  リン、とその時、フロントの黒電話が鳴った。
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