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「はい。フロント兼支配人兼従業員兼……総支配人の堤でございます。これは、露木様。……は?トランプの、……スペードの3が無い?それは、わたくしとしたことが……ええ、急いでお持ちいたします。はい、一組しかございませんので、手書きで真心込めて作らせて頂きます。少々お待ち下さいませ」 「どうした。まだ気分悪いか」  空になったティーカップをぼうっと見つめていた眞里絵は、夫の声に顔を上げ、首を振った。 「もう大丈夫。……行き先が変わったのも、急に気分が悪くなったのも、ここに来るように呼ばれたんでしょ。なにかに」 「とばっちりだったな」  苦笑いする夫に、眞里絵は小さく笑みを返す。 「それは構わないけど、……」 「萩原なら、彼氏に任せときゃなんとかするだろ」  黙ったままの妻に海棠は言った。 「適当に言ってるわけじゃない。……もしも、……じゃねぇな、今度こそ確実に露木と萩原はこの世では二度と会えなくなるだろう。それでも露木はこれからも萩原を支え続けるんだ。奴との記憶が、今日の思い出が、……たとえ萩原がこの先他の男を選んだとしても、……ずっとここから支え続ける」  海棠は自分の胸に手を当て、妻を見据える。 「だから、きっと」 「……ごめんなさい。あなたが言いたいことは分かるけど、あたしにはやっぱり無理。そんな風には思えない。……ちょっとホテルの中、見て来る」  立ち上がり背を向けると夫の視線を感じたが、眞里絵はそのまま部屋を出た。
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