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 薄暗い廊下。モスグリーンを基調にしてくすんだオレンジで模様を描いた壁紙。  確かに普通のホテルとは違う空気があるが、その暗さは不安を感じさせるものではなく、むしろほっと落ち着くような懐かしささえ覚える。  死も生も平等に同じ時間を過ごせるホテル。それは慰めにはなるけれど、一歩外に出れば――――。  ふと、背後に人の気配を感じた。  夫か、よしのか。振り返るとそこには二十代前半くらいの若い女性が居た。身にまとっている青い花模様のワンピースはどこかで見た覚えがある。  その女性はにこりと笑みを浮かべ 「こんにちは」 と眞里絵に話しかける。 「あ……こんにちは」  あの支配人の口ぶりからすると他に宿泊客など居ないようだったが、これは人だろうか。などと考えると自分も夫に毒されて来たと思う。
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