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「眞里絵さんたちもまだ居るなら誘ってみようか?」
冗談半分によしのが言うと、堤は宙に視線を向け少し考え、答えた。
「……今は止めた方がよろしいかと」
「どうして?」
「それはまあ、アレです。あのラブラブなお二人ですから。余計なお邪魔などしてはあの旦那様に後からなにを言われるか。……それに、遠慮なさると思いますよ。特に奥様が」
「……そう……ですね」
「萩原様?」
いつのまにか、よしのの眼に涙が浮かんでいた。
「あ、ううん。大丈夫。……ここに居ると、なにもかもが優しくて、夢みたいで……」
夢はいつか覚める。けれど
「それが、ホテル万華鏡でございます。必要なお客様に、ひとときのやすらぎの時間をお過ごし頂く……」
堤の言葉によしのは頷いた。
たとえ明日には終わりが来る時間だとしても、この温かい記憶はずっと胸の中で生き続ける。きっといつまでも、灯火のように照らしてくれる。
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