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しばらく海棠は黙っていたが
「多分な」
と呟いた。
「そのために、わざわざ俺を巻き込んで、こんなことになったんだ。彼氏が、ここには居させないだろう」
「……うん……」
まだ、ホテル万華鏡だった場所を見つめている妻に、海棠は言った。
「そこで待っていたいなら付き合うが、先に朝飯くらい食べたらどうだ」
「あ……違うの。……あたしが、お母さんに逢えたなら、あなたは、おばあ様に逢いたかったんじゃないかと思って」
見えない世界との付き合い方を教えてくれた祖母の笑顔が、脳裡に浮かんだ。
が、海棠は首を振った。
「……俺には、必要がないから、そうならなかったんだろう。……俺は、見えなくてもそこにあることを教えられた。お前の場合は、長いこと一人で頑張り過ぎた。申し訳なかったっていう、親心だと思うけどな」
「……そっか」
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