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後ろを、外国人らしい観光客が、がやがやと通り過ぎて行くのが聞こえた。
誰かが電話で話す声が聞こえた。
ここは紛れもなく、生きている者の日常の世界で、ここではもう彼岸の人々に逢うことは出来ないけれど、それは彼らがどこにも居ないということではないと、ホテル万華鏡は教えてくれる。
「……堤さんに、近くに美味しいモーニングが食べられるカフェとかないか、聞けば良かった」
歩き出した眞里絵が言うと海棠は眉を寄せる。
「あの支配人のお勧めの店なんて行きたくもねえ」
「でも、あなたと気が合いそうだったけど」
「冗談だろ」
そう答えながら、いつかまた、あの支配人と会う機会が訪れるような予感がよぎったが、それは妻には黙っておこうと思った。
『ホテル万華鏡×牡丹燈籠双月』了
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