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「すいませーん」  立て型の一日カレンダーが置いてある木目調のカウンターには誰もおらず、照明も淡く薄暗い。外は真昼なのに、ここには昼とも夜とも言えないここだけの時間が流れているように感じた。 「すいませ……」 「いらっしゃいませ」  奥から現れたのは背の高いスーツ姿の男だった。年齢は四十代くらいに見えるが、その身のこなしや風情には老執事のような落ち着きも感じられる。  反射的によしのは一歩後じさり、それから思い直して言った。 「あの、すみません。連れがちょっと気分が悪くなってしまって、少し休ませて頂けませんか?」 「ああ、そういうご事情でございましたか。納得いたしました」 「え?」 「いえ、このホテルにご予約以外のお客様が来られるということは非常に珍しいことで、まあ、ご予約のお客様が来られるのも相当に珍しいことなのですが。つまり当ホテルには常に閑古鳥が……いえ、わたくしとしたことが、お具合が悪いと言うのにお喋りが過ぎました。どうぞ奥でお休みください。申し遅れましたが、わたくし当ホテルの支配人兼従業員兼受付会計ドアマン……要するに全てひとりで賄っております、総支配人の堤と申します。よろしくお見知りおきを」 「はぁ……」
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