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「よろしければお部屋も全室空いて……あ、いや、今日は全室では……」
「泊まりは結構です。あ、ほら眞里絵さん」
ドアにもたれかかっている眞里絵の元に戻ると、後から堤という支配人もやって来て
「失礼します」
と彼女の手を取る。
「……なにやってるんですか?」
「いえ、当ホテルは少々訳有りでして、……あぁ、少しお疲れになっただけのようですね。お命には別状ないようで……」
「は?」
「なんでもございません。では一番近いお部屋にご案内しましょう」
堤はエスコートでもするように眞里絵の手を引いて先を歩いていく。よしのは慌てて後を追う。
「だから、部屋とかいいですから」
「まあ、そうおっしゃらず……このホテルに二組もお客様が滞在されるなど、そう、思い起こしてみてもこの十年、いや、数十年……」
「はい?」
「ええ、覚えている限りかなり珍しいことで、わたくしも少々舞い上がっております」
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