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「聞きましたか? カーディナリス家の話を」
「ああ……あのロベリア嬢の話!」
「オカルトに傾倒していて、彼女と目を合わせた人は呪われるとか」
「たしか奥方様は彼女が生まれたのと引き換えに亡くなられたのでしょう?」
「呪いの子だと言われているものねえ」
「ああ、やだやだ怖い……!」
口さがない令嬢たちの言葉を、誰とも視線を合わせることなく、ロベリアは壁の花となって夜会で聞いていた。
この国では珍しい真っ黒な髪にラベンダー色の瞳。珍しい容貌が余計に呪いの子だとまことしやかに囁かれる要因となっていた。
馬鹿みたい。
ポーカーフェイスで必死にあくびを噛み締めて、早く馬車が来るのを待っていた。
ノルマとして参加しないといけない夜会から出るには、馬車の到着を待たないといけないのだから。
「やあ、君は今日もひとりでいるね」
そう声をかけてきた青年に、ロベリアはちらりと視線を向けた。麦穂のような豊かな金髪をひとつにまとめた、空色の瞳の青年は、どこからともなく月下香の匂いを漂わせていた。
ロベリアに声をかけてくるもの好きは、このポリアンサスくらいなものだろう。
「私としゃべっていると、またよからぬ噂を立てられますよ」
「噂なんてあてにならないものじゃないか。皆、君のエキゾチックな美しさに妬いているだけさ」
「見た目なんていくらでも変えられますから、そんなものを褒められても嬉しくはありません」
「おまけにとても賢いと来たものだ」
ロベリアの素っ気ない言葉を気にすることなく、ポリアンサスは隣に立っていた。
ちょうどそこで迎えが来た。それに心底ほっとしたようにロベリアは背を向けた。
「迎えが来ましたので、失礼します」
「今日もつれないね、もう少しゆっくりしていけばいいのに」
「私、火遊びはしたくありませんので。火傷しないよう、ほどほどで」
ロベリアの冷たいひと言に、ポリアンサスは大袈裟なほどに肩を落としたが、どうせ懲りずに他の令嬢に声をかけるだろうから、そのまま彼女は夜会を後にした。
ノルマは達成したのだから、あとしばらくは夜会に参加しなくて済むだろう。
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