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「『最近の彼は一段と美しい……』と思うのであった」
「確かに黒野さんはカッコいいけど、それは前からだし……けど確かに今日は何か感じが違うな――っていうか天子ちゃん!?」
近くの扉の隙間から顔を覗かせていたのは天子ちゃんだった。そんなところからジッと見ないで下さい……何か怖いぞ。
「天子ちゃんの部屋だったんだ、ここ」
「それは人妻のように……いえ、未亡人のように艶やかに色気を増して……」
聞いてないし。
「人妻……って黒野さん結婚してるの?」
意外……ではないか。あれだけ素敵な人だ、居てもおかしくない。
「知らないけろけろ」
ケロケロ?
髪に結んだリボンを触りながら天子ちゃんは扉から出て俺の目の前に来た。
「ぐふふ……気になるけろ? そーだ、チーちゃん知ってる? 黒さまが凛として美しいのは女性ホルモンの分泌量なのであるぞ」
「女性……?」
ずいっと人差し指を立てた彼女は俺の鼻の頭をボタンのように押してきた。ホルモンの事は詳しくないが、それよりこの妙なあだ名の方が気になる。
「つまりあの方は男装の麗人なのであーる」
「男装の……」
天子ちゃんの指を掴んで鼻から離し、暫く思考が停止したかのように固まっていた。すると天子ちゃんは俺の手を振り払って去ろうとする。
「あ、ちょっと待って!!」
「何だお? ときめいたッチ?」
俺が呼び止めると、天子ちゃんはパァっと花が咲いたような笑顔を向けた。
「時滅入た訳ではないけど、バリカンってこの家にある?」
「……使った事ないから知らんッチ」
その花は見る見るうちにしぼんでしまった。
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