戦場という名の休日

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 男装の……って黒野さんは男装しているのか? 何で……そういえば『身の回りを手伝ってもらうなら異性のお手伝いさんがいい』みたいな事を蝶子さんが言ってたけど、関係あるのかな。  ……ってそうなると、黒野さんは女性という事になるじゃないか!? 確かに端正で女性的な顔立ちだけど、外国人ってそんなものだと……。俺は騙されていたのか?? いや、そもそも性別なんて聞かないし……俺が勝手に男性だと思い込んでいたって事か? 巳山も『美人美人』とか言ってたし……。  腕を組み下を向きながら悶々と考え事をして長い廊下を歩いていると、また誰かにぶつかってしまった。 「おっと、オージローお坊ちゃん大丈夫ですかい?」  倒れそうになった俺の身体を筋骨隆々な肉体が包む。目の前にあった力強そうな胸板の上を見上げると緑山さんの顔が見えた。 「緑山さん……すみません」  正直緑山さんは何度か見かけたくらいで直接関わった事がない。しかしその巨体と言えそうなくらいの大きさから遠くにいてもよく目に入ったいた。 「何か考え事ですかい?」  転びそうになった俺の身体を真っ直ぐに立たせた緑山さんは顔を覗き込んできた。 「いえ……それよりその、お坊ちゃんってのは……」 「実際お坊ちゃんですから」  そうなのかもしれないけど……。お坊ちゃんは止めていただきたい。 「じゃあお坊ちゃん、俺は黒野に呼び出されたんで失礼……」 「そうだ、緑山さんは黒野さんと仲良いんですか??」  立ち去ろうとした瞬間に呼び止めてしまったせいか、彼は少し顔を一瞬しかめた。 「急にどうしたんですか……仲が良いって。まぁどちらかと言えばただの上司って感じですかねぇ」 「そ、そうですか……あ、呼び止めてすみませんでした」  何となく不穏な空気が漂っていたので俺は踵を返し立ち去ろうとした。すると彼は俺の腕をしっかり掴んでそれを拒んだ。 「上司は上司でも嫌味ったらしい上司なんですよ。あんなひょろっちい癖に何でも出来るし、人使い荒いし」  何か愚痴が始まってしまったぞ……。 「青は懐いてるみたいだけど、あいつ隠し事多いしよ……何考えてるかわからねーってんでぇ」  何か口調が乱れてきたぞ……。 「あぁ……でも普段あんな感じだけど実は『おばあちゃんっ子』なんだぜ。アイツでも可愛いとこあるん――」 「緑山君、こんなところにいたのですか?? 仕事が山積みで困っていますのでご協力をお願い致します、早急に。後、桜次郎様の腕から手を離すようにお願いします」  目にも止まらぬ早業でいつの間にか緑山さんの隣に来ていた黒野さんは、彼の腕を俺から引き剥がした。
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