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業務的な話を聞いた緑山さんがぶつぶつと何かを呟きながら去って行くと、横から刺さるような視線を感じた。
「桜次郎様はどこかへお出掛けですか?」
「へ? ……あ……あの、ば、バリカンありますか??」
間の抜けた声を発しながら少したじろいだ俺は咄嗟にバリカンの事を聞いた。急にバリカンという単語が出た為か、黒野さんは案の定不思議そうな顔をしている。
「ええと……バリカン……ってか、散髪をしようと床屋にでも行こかなーって……」
「散髪……ですか」
俺の髪を凝視していた黒野さんの腕が伸び、ゆっくりと髪に触れた。撫でるように一房の髪を掬うと指先を使い梳かしている。
この状況は一体……!? というか何かすごく恥ずかしいんですけど。天子ちゃんが言っていたさっきの言葉を思い出すと変に意識して緊張で汗が出てきたぞ。
「私でよろしければ髪をカット致しましょうか? 本日は月曜日ですので大体の美容院は定休日となりますゆえ」
「だ、大丈夫です! そんな黒野さんの手を煩わせる程の事では……」
俺は首と両手を振って断った。……って何を慌てているんだか。
「いえ、バリカンで坊主という訳にもいきません。それでは園子様に怒られてしまいます」
えぇ……母さんが? 確かに昔は母さんに切って貰ってたけどさ。
「朝食の後、カットさせて頂きますのでよろしくお願いします」
そう言うと爽やかでにこやかな笑顔を向けた黒野さんは華麗に去って行ってしまう。
よろしくされてしまったけど……まぁ髪を切りたかったのは本当だったしいいかな。
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