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人望くん
どこの世界にも、いったいその人がなぜそんなに評価されているのか、その要因がどうにも思いあたらない人物というのがいる。イケメンでも演技派でもない大御所俳優。美人でも巨乳でもないグラビア女王。失言まみれ汚職まみれの大物政治家――。
挙げればキリがないが、考えてみれば小学生のころからそういう奴はいた。私は彼のことを、羨望と揶揄の念を込めて「人望くん」と呼んでいた。
人望くんは、とにかく先生に怒られなかった。私たち男子が休み時間のドッヂボールに夢中になりすぎて、校庭から教室に戻るのが遅れたときもそうだった。担任の中年男性教師は、教室の前扉の前に仁王立ちして僕らを待ち構え、遅れてきた生徒に次々と容赦ないビンタを喰らわせていった。
しかし五・六人叩いたのち、人望くんが目の前に現れると、担任は振り上げていた手を止めて言った。
「お前はわかってるはずだ。わかってるならいい」
いったい何がわかっているというのか? そして担任は何を証拠に、彼が何をわかっていると感じ取れたのか?
そうして担任は人望くんをやり過ごすと、何事もなかったようにいったん手を降ろし、充分なストロークをもってもう一度振りかぶり直してから、その後に来た生徒たちへ再びビンタを浴びせ続けていったのだった。
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