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その事件があってから、私は人望くんを疑いはじめた。きっと彼は、校長先生の息子に違いない。だから彼だけは、何をやっても怒られないのだ。小学生の私にしてみれば、それが自分の思いつく範囲内において弾きだした、彼だけが殴られないことに対する精一杯の理由だった。
だが改めてクラスメイトの情報を集めてみたところ、もちろんそんなことはなかった。人望くんはごく普通の中流サラリーマン家庭の、ありがちなひとりっ子であるようだった。
そのまま地元の公立中学へ進学した私は、人望くんとクラスこそ違ったものの、同じ野球部に入部することになった。
しかし入ってみれば野球部とは名ばかりで、走り込みと球拾いだけが一年生の仕事だった。夏休み中も容赦なく練習が続くなか、市内の強豪校がわざわざ我が校へやってきて、三年生主体のチーム同士で練習試合が行われた。
我が校の野球部の監督が、試合前に総勢五十人を越える全部員を集めて、その日のスターティングメンバーを告げた。
打順の一番から順にメンバーが発表されていったが、あえて四番だけを空欄にして飛ばしたまま、九番までの発表を終えた。そのいつもとは異なる発表方法に部員たちがザワつくなか、監督は円陣後方に埋もれている人望くんを遠く指さして言った。
「おい、そこの一年。四番ピッチャーはお前だ!」
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