人望くん

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 思い浮かぶとしたら、せいぜい「通学途中に産気づいている妊婦を助けた」とか、「電車内でお婆さんに席を譲った」といった類の親切行為くらいしかないが、そういえば彼が特にやさしい男だったという記憶もない。  だとすればそんな彼の説明不可能な魅力を、はたして「人望」と言って良いものかどうか。やさしさは人望の一部であるような気もするが、峻厳かつ人望のある人物というのも少なくない。  そんな彼が平凡な大学を卒業した2020年の夏、未曾有の絶望的な危機に見舞われた地球をこの男が、腕力でも学力でも政治力でも発想力でも技術力でもなく、しかしいつのまにか全人類の中心に祭りあげられて救うことになるのだから、やはり私のような「無人望くん」からしてみれば、もはや彼のことを「人望くん」と呼ぶほかはないのである。
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