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◆◆◆◆
火花を散らした2人が廊下の床に叩きつけられた。
暁斗は潰れた足を引きずりながら、這うように近づいた。
2人は白目をむいて、焼け焦げて絶命していた。
そのまま這いながら前に進む。
足に鋭い痛みが走る。もう右足も左足もどうなっているのかもわからない。もしかしたら二つは潰れて混ざって、粘土のようにグチャグチャになってしまっているかもしれない。
でも足なんか、どうでもよかった。
「猪股」
親友のもとへ近づく。
今にも遠くに旅立ってしまいそうな、親友のもとへ。
「猪股!!」
ようやくたどり着くと、壁に自分の身体を押し付けて、隣に座った。
「……はは。めっちゃ久しぶりだな。こうやって並んで座るの」
届いているとは思っていなかったが、猪股はふっと息を吐いた。
「そーだな」
暁斗はその頭と肩に手を回して、彼を抱きしめた。
「助けてやれなくて、ごめんな」
言うと、涙が溢れてきた。
「謝らなきゃいけないのは、俺だろ。俺なんだよ。ごめんな夏目。ーーー恨んでる?」
その身体をさらに強く抱きしめる。
「バカだな。俺が、俺がだぞ?……お前を恨むはず、ねーだろ!!」
猪股が赤い目を閉じた。その目からも涙が一筋、頬を伝った。
「………俺、ずっとお前のこと、好――――」
猪股の体から力が抜けた。その頭がかくんと暁斗の肩に凭れた。
「―――知ってたよ」
暁斗は優しく猪股の頭を撫でた。
「知らないふりして。気づかないふりして。ごめんな」
その身体をより強く抱きしめた。
自分の腕の中で、親友の命が消えていく。
夏目がいなくなっても、ちゃんとアドバイスした通りの筋トレをしたのがわかる引き締まった身体を。
二度とサッカーボールを蹴ることのないだろうその身体を。
暁斗は力の限り抱きしめた。
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