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どうしよう。返信もなければ既読にもならない有紗の反応を見て、結衣はどう思うだろう。しかも、“彼”がいることまでバレたのに。 思わずこめかみあたりをかきむしりながら、一番前の席で首を回しているサッカー馬鹿を見る。 全部、全部あいつのせいだ。 『ねえ。猪股って良くない?』 結衣が囁いてきたのは、2年の終わりだった。今までモテないわけではなかった結衣からの初めての恋バナだった。 『告ろうかな』 結衣は柄でもなく迷っているようだった。 『どう思う?有紗、猪股と仲いいじゃん?』 猪股とは不思議と気が合った。サッカーをしているときはまあ見れなくもないが、普段は、単細胞で単純で、そう、単なるバカだ。 『告っちゃえ!絶対うまくいくって!』 有紗が発したその言葉は、確信に満ちていた。だって、こんなにかわいくて、人気者で、非の打ちどころがない結衣が告白なんてしたら、断る男などこの世にいるとは思えなかった。 それも、サッカー馬鹿とは言え、端正な顔と人懐こい性格から学年一モテる猪股でも、例外ではないはずだった。 しかし。 結衣は振られた。 有紗にしか打ち明けなかった恋は、あっけなく散った。 馬鹿な猪股が、なんと言って断ったかはわからない。 しかし、結衣は、それから有紗と口を利いてくれなくなった。 今まで仲良さそうにしていた結衣の周りの女子まで、まるで潮が引くように有紗から離れていった。 トイレには一緒に連れて行ってくれず、グループラインからは外され、昼休みには有紗を置いて購買に行くようになってしまった。 結衣はこちらに向かって意地悪を言うわけでもなく、遠くから睨むわけでもなく、ただ、ただ、有紗の存在を無視した。 彼女の笑い声が、弾けるような笑顔が、輝けば輝いているほど、有紗の心は重く冷たくなっていった。まるで、有紗は初めからいなかったかのように。 何をどうしていいのかわからなかった。 別に自分は猪股と特別な関係でもない。 ただ、同中出身で、口喧嘩くらいはできる間柄というだけだ。 互いに恋愛感情はない。全くない。 それなのに、こんなに目の敵にされるなんて、解せなかった。 不満もあったが、悲しみのほうが大きかった。 またあのかわいい笑顔を自分に向けてほしい。あの隣のポジションに戻りたい。そう願うばかりだった。 そのまま3ヶ月が過ぎたある日、体育のバレーボールのチーム決めの際、急に向こうから「一緒のチームになろう」と誘ってきてくれたのをきっかけに、なぜか急激に元に戻った。いや、戻ったと思う。 そんな綱渡りのような関係のときに、2週間のブランクは辛い。しかも、この夏期講習に猪股が来ていることも今、知られてしまった。 だって仕方ない。隠していたら、それこそ後から何と言われるかわかったもんじゃない。 ―――最悪だ。 有紗が頭を抱え込むように肘をついたとき、教室のドアがトントンと2回叩かれた。
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