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◆◆◆◆ 有紗は降ってきたベッドにつぶされた。 あまりの痛みに息ができない。 「宮城!」倉科が叫ぶ。 「ほら!お前は女に話しかけんなって言ってんだろうが!!」 上原が赤い目を光らせながら倉科の頬をビンタする。 「逃げろ!」 尚も叫ぶ倉科をまた強烈な一撃が襲う。 「お前たちは、私が生み出してやったキャラなんだから!!お前たちはケツの穴にチンコ突っ込んで、ヒイヒイ言ってればいいんだよ!!」 「ーーーはは」 ずっと動かなかった猪股が笑った。 「ケイ!やっと起きたの?さあ、立って。テルを助けて」 上原が駆け寄る。 「ーーー近づくな、腐女子。腐敗臭がすんだよ、お前」 猪股は赤い目で上原を睨んだ。 「キモイよ。上原。お前が一番のモブ女だ」 上原がワナワナと震え出す。 「俺はケイじゃねぇ。あいつもテルじゃねえ。 お前のキモい妄想に付き合わすんじゃねーよ!」 有紗は今まで何百回と見てきたはずの、猪股の睨んだ顔を眺めて、初めてかっこいいと思った。 今、やっとわかった。 金堂結衣が有紗を無視した理由。 結衣の本物の恋を、有紗は応援なんてしてなかった。 大丈夫なんて思っていなかった。 結衣が振られたと泣きながら報告してきたとき―――。 きっと有紗の顔は、笑っていた。 ―――私はずっと。こいつのことが好きだったんだ。 『また写真?』 『宮城が辛くないならそれでいいんだけど。無理してるくらいならやめたほうがいいんじゃないかなって』 かつてそう言ってくれた男を思い出す。 彼が、夏目だけが、有紗の気持ちに気がついていた。 ーーーそっか。そうだったんだ。 多目的室側の階段を見る。 赤い光と影が揺らめていてる。 煙と臭いが廊下を走ってくる。 もう時間がない。 ジジッ  ジジジッ どこからか音が聞こえる。 見上げると、蛍光灯が割れ、その奥から火花が見え隠れする。 目の前には鉄くずと化したベッドが無造作に投げ捨ててある。 導かれるように、有紗はその上に登った。 「お前、誰に向かって口をきいてんだよ!私のおかげで人気が出たも同然なのに!!」 「うるせえ。女からの、人気なん、か、いらねーんだよ」 猪股の目に光が無くなってきた。 「俺は。夏目と一緒にいられれば、あとは、どーでも、よかったんだ」 「うるさい!テルって呼べ!!!!」 寧々がもう一度、ベッドを掴んだ。 その手を有紗は捕まえた。 「な」 眼中に有紗を入れていなかった寧々が驚いてベッドの上に立つ“モブ女”を見上げる。 「そっか。あんたってBLが好きなんだ」 「―――だから何?」 「じゃあさ」 手を天井に向けて伸ばす。 「GLも好き?」 上原を引き上げながら抱きしめる。 同時に天井に伸ばしたもう片方の手を、火花の中に突っ込む。 先ほどシャワーで濡らした身体は電気抵抗が格段に下がっていた。 それによって跳ね上がった電圧が一気に二人の体を駆け抜ける。 有紗の体はその強烈な刺激に勝手に硬直し、寧々を益々強く抱きしめた。 有紗の水分と電圧が移った寧々が悲鳴を上げる。 ―――ああ。これでほっといても彼女は死んでくれる。 有紗は満足感の中、猪股を見た。 赤い瞳の光は今にも消えそうだ。 ―――馬鹿。死んでる場合じゃないでしょ。ちゃんと、伝えなさいよ。 かーちゃん、応援してるからね……。
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