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金堂結衣は、有紗と同じ3年4組の女子生徒で、クラスカーストどころか学年カーストの頂点に立つような女である。
容姿端麗、成績優秀、リーダーシップもユーモアもあり、バレー部のキャプテン、青春の理想を絵に描いたような女の子だ。
彼女の周りにはいつも取り巻きができていて、有紗もその一人だった。少しでも結衣のそばを陣取れるように、休み時間も体育の時間も、自然を装って結衣の元へ走った。
それは夏休み中も例外ではなく、結衣がインスタで「勉強飽きた」と呟けば、ストップウォッチ片手に赤本を開いていても「右に同じく」と出かける支度をし、位置情報アプリで結衣がクラスメイトと合っているのがわかれば偶然を装って連絡を取り合流した。
それなのに。
夏休みを一週間も過ぎたところで、堀内栞から届いた文書は、有紗の日常を大いに乱した。
『この文書は、城西高校3年生の中で、7月に提出していただいた志望校の志望学科に、6月の模試の判定が芳しくなかった生徒にのみ送らせていただいています』
そんな一文で始まったA4の用紙は、有紗をどん底に突き落とした。
『全生徒に志望校の志望学科に入学していただきたい。そんな3年担任の教師、共通の希望から、下記の内容で特別夏期講習が催されることとなりました。ちなみに、該当する生徒においては、2学期の必要単位の一部に該当されますので、何か特別な事由がない限り、参加していただきますようよろしくお願いします。』
夏期講習が嫌なわけではない。受験生という立場上、何をしていいかわからずにただいたずらに日が経つよりは、強制的に勉強させられる環境の方がいいに決まっている。
しかし有紗にとっては、2週間、結衣と他の友人が過ごすかもしれない時間にとてつもない焦りを覚える。
思わずスマートフォンを握りしめる。
「こーら」
いつの間にか目の前に立っていた堀内が覗き込む。
「ここに来た目的を忘れたの?」
言いながら結衣と揃いで買った手帳型のケースに包まれたスマートホンを取り上げられる。
「ちょっと。何するんですか?」
思わず非難の声を上げる。だが今日の堀内は強気に有紗を見下ろした。
「講習中は没収します。夜になったらまた返します。緊急時はきちんと対応します。何か問題ありますか?」
いつになく有無を言わせない強い口調に何も言えずにいると、堀内は有紗の前を通過して、生徒を周り始めた。
「はい。聞いたでしょ。全員携帯電話を出して」
言いながら、遠い昔に保育園で使ったようなキルト生地のナップザックにスマートフォンを入れていく。
全員分が集められ、ドサッという音を立てて無造作に教卓に置かれると、有紗は小さく息をついた。
これで、日中、結衣と連絡が取れなくなる。その事実が彼女を呆然とさせた。
2週間の間に、彼女に仲間はずれにされたらどうしよう。気に触ることをした覚えはないが、人が人を陥れる理由なんて、多くの場合、被害者が想像できない理由で、なのだ。
そんな不安を胸にこれからの日々を過ごさないといけないかと思うと、胃から何かがせり上がってくる思いだった。
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