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「おはよう」
「おはよう、智弘さん」
「おとうさん、おかあさん、おはよー!」
三者三様の朝の挨拶がリビングに響く。 佐伯家の朝は、この声から始まる。
ダイニングテーブルには3人分の朝食が並ぶ。大人用に焼き魚におひたしに味噌汁、それに白い湯気を上げる炊き立てのご飯。2歳の娘・優奈用には、少なく盛ったご飯とやや薄味の味噌汁、焼き魚のほぐし身。一家の長である佐伯智弘が起きてくる時間に合わせて、妻の美穂が毎日準備しているのだ。テーブルにつく頃には、智弘は着替え、髪もきっちり整え終えている。休日である今日も、その習慣は変わらない。
朝食の時間は、朝の最後の準備ということになる。
テーブルに智弘と美穂が向かい合って座り、二人の間に置いた乳児用の椅子に優奈が座り、揃って手を合わせる。
「いただきま――」
「あっ!」
と、優奈が大きな声で遮った。
「ゆうちゃん、どうしたの?」
「おはようまだいってない」
「? さっき言ったよ?」
「ちがう!」
優奈は身をよじって美穂の方へと手を伸ばした。そして、かろうじて美穂のお腹に手が届くと、ニッコリ笑った。
「おはよ」
その様子を見て、智弘も美穂も、思わずほおを緩めた。
「おはよう」
「おはよう!」
智弘は美穂の方を見て、美穂は自分のお腹に手を当てて、そうあいさつをした。
そこに宿る小さな、新たな家族に向けて。
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