1話.『死体屋の山田くん』

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1話.『死体屋の山田くん』

今日も仕事があった。こんな仕事でもお金を貰っているので、仕事の依頼があるのは有難いし、これで食べている以上無くなってくれとは俺の口からは言えない仕事だ。 それでも世間様にとっては有難くないし、色んな意味で汚ない仕事だと罵る人も多い事を知っている。 それでもこの仕事が、依頼が無くならないのは、そう思わない人たちも居るからだ。 死体を片付ける。 それが俺の仕事。 無くならない仕事。 やめられない仕事。 今日も仕事だ。だからと言って、気を張る必要は無い。現場が違えどやる事に差はない、楽な仕事。各々仕事着に着替え、電話で依頼が来るまで待機。ダラダラするものも居れば、生真面目に正座で待機しているのも居ることだろう。まあ、同僚に会ったことなど、仕事仲間に会ったことなど、この仕事に就いて初日の顔合わせ以外無いでその場の面々の顔から偏見で言っているので根拠はない。 (協力して死体を捌いてる所もあるって聞くけど、僕はしたことないなぁ) 正直、あの面子の中にそんな仲のいい関係は見えなかったと思う。その辺はこの仕事に就く際に散々言い聞かされて、言って聞かせた注意事項であり、この仕事をやって行くにあたっての常識であり、この仕事を行う者たちに対する敬意として刻まれた言葉。 『干渉するな・詮索するな・繋がるな』 僕達は死体屋。いつも死体を片付けている。それが例えどんな死体であろうとも、その手を止めることは無い。 例え、それが仲間の死体であろうとも。 「……」 死体は現場に行くまで分からない。他人のものならいい、すれ違っただけならいい。大抵の奴は他人を捌くのに抵抗はないから。 情が湧かないなら話してもいいし、友達になってもいいし、付き合ってもいい。友好関係を縛っている訳では無いし、実際この仕事をしながら子供を持つ奴もいる。 それらを許されている唯一の条件が『処分できること』だから。 どれだけ親しい人間になってもそいつを殺され、処分できるならいいと言われている。 (まあこの仕事をしてて家庭持ちなんて、僕は今の所一人しか知らないけど。恋人を持っている奴なら何人かいるらしい) それも噂だ。僕は直接会って話したことなんてないから、大体小耳に挟んでそれを覚えてるだけ。キープだから、何股してる、いつも違う相手を連れている、どれもこれも美談には程遠い浮気性ばかり。 この仕事をしている以上一人に絞ると、辿る末路は悲しいものばかりなのだろう。 “代え”があるだけで、“代用”できるだけで、“唯一”じゃないからこそ、安心するのだろう。 そういう、職業病になっていくのだろう。
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