第一章 航海前 第十節 前夜祭 その2

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「おい!小僧っ子!オメーが持っているものは何だ?うまそうな匂いがするが?」  レンゴンはブルアン本人よりも、その両手で抱えているバスケットに興味がある様子で、それを奪い取ろうと両手を伸ばしてきた。 「だめだ!これは船で見張りをしている人たちの夜食だ!」  ブルアンはバスケットを奪われまいと急にしゃがみ込んでバスケットをかばった。 「おい!隠すんじゃねぇよ!いいじゃねえか?少しくらい!」  レンゴンは我慢しきれないようにバスケットを奪おうとした。 「おい!レンゴン!やめろよ!」  ブルアンの後ろにいたケルガがブルアンのやや右前に出て、右手の剣をだらりと下げると同時に、左手でレンゴンを抑えようとした─── (今だ!!)  ブルアンは瞬間的に思考すると、バスケットを右に思いきり振ってケルガの両足にぶつけ、ケルガがぐらついて倒れ、食いしん坊のレンゴンがバスケットの中身がこぼれるのに目が釘付けになった瞬間に、脱兎のごとくしゃがんだ姿勢から左手にダッシュして飛び出すと、元来た道の方へと走りだした。 「テメッ!!」  ぐらついて尻餅をついたケルガは急いで起き上がるとブルアンを追いかけ始め、そのすぐあとをレンゴンが追いかけた。  ブルアンが商店街の端の通りに入るか入らないかのところで、身長も足の速さも勝るケルガがブルアンに追いついてその首ねっこをつかもうとしたときだった───  商店街の通りの暗がりからいきなり一人のガタイが良く背の高い男が現れると、左手の義手でケルガの腹を打って彼女を後方に吹っ飛ばした。  その先には運悪くレンゴンが走ってきており、二人は激突し、ケルガは後ろに崩れるレンゴンの上に倒れこんだ。 「よおっ、勇ましい嬢ちゃんじゃねぇか?・・・オメーは確か、黒番犬の妹・・・ケルガだな?」  左手義手の背の高い男は言った。 「グリンドーさん!」  ブルアンは地獄に仏だというように声を弾ませた。
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