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第一章 航海前 第十節 前夜祭 その3
「あ、あんたは!兄貴が言っていた・・・マンクッカー船長なのか?!」
ケルガは倒れた姿勢のまま、驚きの声でグリンドーを見た。
「マンクッカー船長・・・だって?・・・そんな地獄の鬼のような奴じゃないさ!オレはグリンドーって名のしがない料理番さ!」
料理番は自分にすがりついてくるブルアンを右手で庇いながらミトコンドリア葉緑体電気義手の左手のカニ鋏の四本の指を真っ直ぐにケルガとレンゴンに向けた。
「・・・だけどな、オレの大事な仲間を攫おうなんてヤツがいたら・・・しがない料理番のオレでも黙っちゃいないぜ?」
料理番の左手カニ鋏の指先の鋭い爪が黒い光を放つ。
鋭い爪は弾丸のように射出することができるのだ。
「く、くそっ!覚えてろよ!」
ケルガが立ち上がり、それに続いてレンゴンもよろよろと立ち上がると桟橋に停めてあるボートに向かって小走りに走り出した。
「ケルーベ兄貴が!・・・絶対!お前に一発食らわしてやるさ!!」
ケルガはやや後ろを振り向きつつ乱れる息で叫んだ。
「ほォ、そいつは楽しみだ!待ってるぜ!」
青い月明りの中、料理番も大きな声で返しつつニヤリと笑った。
ケルガとレンゴンが桟橋のボートへの梯子を下り始めたあたりで、オレージナがブルアンとグリンドーの元に駆けてきた。
「大丈夫かい!ブルアン!怪我はないか?!」
「あっ!オレージナさん!・・・大丈夫です!グリンドーさんに助けてもらいました!」
そう答えるブルアンをオレージナは無理矢理グリンドーの右手からもぎ取ると、自分の胸にギュっと抱き寄せた。
「弱っちいくせに!危ないことするんじゃないよ!」
オレージナの温かく豊かな胸を顔のすぐ下に感じつつ、ブルアンは、
「・・・ごめんさない、これからは気を付けるよ」
とつぶやいた。
そんな二人をグリンドーはフッとつぶやくように笑いながらも優しく見守っていた───
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