手を取り合い

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手を取り合い

手を取り合い、暮らしていこう。俺達はそう誓ったはずだった。しかし、香苗と俺の間には埋められない溝ができてしまった。 俺達が結婚したのは四年前だ。その時は幸せに満ちあふれており、未来には希望しかないと信じていた。一年たって子供ができた。玉のようにかわいい子、ということで「たま子」と名付けた。目に入れても痛くないとはこのことで、溺愛した。どっちが抱っこするかで、我が子を取り合いする日々だった。娘と妻を一生守っていこう。心の中でそう決意した。 しかし、徐々にすれ違いが始まった。俺は大きな仕事を任されるようになり、出張が多くなった。初めは電話で連絡を取り合い、寂しい想いをさせまいと努力したが、次第に余裕がなくなってきた。香苗は育児で忙しくなり、俺もかまってやれず、顔を合わせれば不満をぶつけるようになってきた。いつしかお互い揚げ足を取り合い、けなし合い、すれ違うのが当たり前になった。二人の間にできた溝は、日に日に広がっていった。そして、昨日、香苗から離婚を切り出された。驚きはなかった。遅かれ早かれこうなるのは分かっていた。 一つだけ問題があった。たま子のことだ。どちらが引き取るか、話し合ってもお互いに譲らなかった。俺達夫婦、最後はこういう形で子供の取り合いをするなんて、悲しいことだった。結局、どちらが引き取るかは、たま子に決めてもらおうということになった。たま子が決めたことなら従うしかない。その意見で俺達は納得した。
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