工程表

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

工程表

 いよいよ私はスリーワイTVの第三スタジオにまで来てしまった。 午前中のリハーサルでは、「新型コロナウイルス拡散防止のこれから・・」のコーナーでメインキャスターから私への質問が開始された・・ 今は本番、既にそのコーナーに入ったところである。 メインキャスターが話し始めた。 『このコロナウイルスの拡散防止なんですが、既に政府が緊急事態宣言を発出してから、15日が経ちますが、依然、感染者は増え続けています。 そんな中、これまでのメディアの情報をまとめられた、一人のブロガーが居ます。本日スタジオにお見えになっております。 中将さんです!』 「・・どうも・・」 私は、軽く会釈をした。 『いま、国民は自粛と言う名の、要請を要求されていますが、皆さん自粛疲れを訴える方や、商店を経営される方など、一体いつまで、休まなければならないのか、つまり先が見えない不安を訴える方が多いんですが・・このことについて、中将さんは政府に提案が有るようなんです・・そうですよね⁉』 「そうですね・・私は医療従事者でもなければ、行政の人間でもありません。皆さんと同じ、視聴者の一人です。 だからこそ、いろんな識者のお話を訊くことも出来るんです」 『それで、先日、そのブログを投稿されたと言うことですよね? その内容って、今聞かせてもらってもいいでしょうか?』 「実は、今、皆さんが行っている”自粛”は非常に重要な施策だと私は思います。 医療崩壊を起こさないためにも、これ以上の感染者を増やさないことが国民の仕事だと思いませんか⁉  しいては、あなたのためにでも有るんです!」  次に、MCが質問してきた。 『でもそれっていつまでやるの? 感染者数を減らすだけで、本当にこのウイルスが撲滅できるんですか? 』 「そこなんです!・・ もし、山口さんのように、リーダーに不安や疑問を引きずった気ままでは、本来の自粛効果は期待できないと考えます」 『それは、国民を攻めるより、全体像と、先の見えない施策自体にも問題が有るのではないでしょうか?』 MCが、私に問題を振り向けた。 「そうです・・その通りです。だからリーダーは仮説でもいいから、もっと先を照らすことが、とても有効なポイントになるんです。  例えば・・私なら、自粛の終わりを年末から年明けの1月とします。 つまり、この頃には、一定の商店が店を開け、学校は開校していると想定します」 『中将さん、その根拠ってどこにあるのでしょうか?』 「それは、6月中にはアビガンなどの治療薬が感染者に投与できると言った情報が訊かれるからです。 さらに、早くて9月、遅くて12月にはワクチンが実用化されているだろうと・・これもメディアが発信する情報から得たもので、根拠はそれだけです」 『それって、殆どの視聴者は既に知っていることですよね?』 「そうです、冒頭にも申し上げましたが、私は皆さんと同じ、一視聴者なんです。 だから特別な情報を持ち合わせている訳ではありません。 でも、これらの情報を、工程表に書き込んで行けば、説得力のあるストーリーが想像できませんか。 6月の治療薬が実用化すれば、軽症者を始め、入院患者の退院時期を早めることが出来るんです・・やがて医療機関の崩壊にブレーキが効き始めるのです。  だから、今から6月までは、感染者を増やさないように、することの大切さが、自粛者に分かってもらえるはずです。 それは目標が見えているからなんです! その後の治療薬の投与で、医療機関にゆとりが出来れば、自宅待機だなんて、体のいい言葉を使わなくても、陽性患者は安心して入院出来るんです。  勿論、あと半年の期間は、自粛をコントロールしながら、9月から12月になればワクチン接種で、ウイルスのコントロールも出来るはずです・・  これで、メディアの情報は、ただ聞き流すだけではなく、夫々の頭の中で工程表で表現することの価値が理解していただけると思うんです。 当然、治療薬や、ワクチンの投与が出来るタイミングによって、工程は変動します。 でも、それはその時点で修正すればいい訳で、大事なのは、工程表の最後には、必ず“竣工”と言う二文字が有り、それが今、自粛をする糧になるのです」 『いや~、中将さん・・分かりやすい説明でした、我々メディアも工程表を想像した中で、今はこの辺りで、頑張っているんだってこと、もっと説明しなきゃなりませんな・・今日は本当に、有難うございました』  何と、このコメントがテレビに流れたことにより、私は一瞬にして有名人になってしまった。  一方、東証一部のあの会社はどうなったのか? 株主総会のあの日、20億もの累積赤字だった、あの会社だ⁉  あの会社、実はこの新型コロナウイルスの治療薬を開発していた製薬会社だったんです。 その甲斐あって、我が日本を始め、諸外国からの注文で、世界の救世主になってしまった。次の株主総会では、配当金の話まで出たと言う。  但し、こちらもテレビ画面を使った遠隔総会を実施したと言うから、新型コロナウイルスは、私の人生は勿論、世界の会議形式まで大きく変えてしまったようである。 (完) このドラマはフィクションであり、登場する企業、団体、個人などの名称は全て架空のもので在り、実在するもので在りません。 尚、本編のテーマは「お金がない人の超妄想ドラマ」である。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!