二章

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 いつの間にか、とっぷりとくれた陽に、代わって辺りを照らすのは、見慣れた街灯、電気の灯りじゃない。  風が吹くと揺れる裸火を抱えた、びっくりするほど大きな提灯が、ぽう、ぽう、と辺りを照らしている。  そんな提灯が増えるに従って、だんだん普通の民家が少なくなり……かわって増えて来たのは、田んぼと川だった。  大きな提灯が水面に映り、提灯が二倍に増える。  それを不思議だな……と眺めながら歩いているうちに、電気で輝く街灯は全く無くなり、提灯の光があふれる道の片隅に、人が一人倒れているのがみえた。  丁度その頃の俺と同じぐらいの年頃の少年らしい。  まるで、時代劇に出て来る貴族のような着物を着ているのも変だったが、どうやら泣き疲れて眠っているみたいだ。  女の子みたいに優しげで、キレイな顔が涙と泥で汚れている。  そして、これまた女の子みたいに長く伸ばし、後ろで一本に縛った髪も乱れてた。  猫を探していた事情も一瞬忘れ、どうしたんだろう? と近づきかけた俺を、着物姿の男が止めた。 「ほっとけ、ほっとけ! アレは『弱虫』だ」 「弱虫?」 「そうそう、この鎮守の森神社の後継ぎのくせに、化け物だの妖怪だのが、怖ぇんだと。  この前なんざ、火の玉イッコで腰を抜かしてたからなぁ。  自分の身を守ってくれるはずの妖(あやかし)でさえ『怖ぇえ』って泣いて怒って異界に帰しちまうし。  きっと、先行くネコマタでも見かけて目を回したんじゃねぇ?」  着物の男は、面白くもなさそうに吐き捨てると、さあ、行こうぜ、と俺の手をぐいぐいと引っ張った。  口では、大したことない奴だ、と言ってるくせに、どうやらその子どもが苦手らしい。  男は、足早に通り過ぎようとしてたけれど、さすがに俺は道に寝転んでいるヤツを放っておけなかった。 「なぁ、大丈夫?」 「あっ、莫迦、声なんてかけるな!」  着物の男は俺を止めたけれど、もう遅い。  俺達の会話で、その子はうっすらと目を見開き……そして、目を見開いて叫んだ。 「うぁああああぁ! 面鬼だ!」 「面鬼?」  目を覚ました途端、そいつは騒ぎたて、事情を知らない俺は、何寝ぼけてるんだ、と首を傾げた。  確かに着物を着ている所は、あんまり普通じゃなくても『盆踊り』なら納得だし、何より頭に角が無い。  けれども、ヤツは明らかに怯えた顔で、俺に向かってもう一度、叫ぶ。
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