二章

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「ヒトを助けるために、ためらいなく水に飛び込む勇気と度胸は、あるのに、さ。  妖だの化け物が怖くて、布団から出て来られないのさ。  さっきから、無駄に悲鳴をあげてるんだけど、どうしようかねぇ」 「妖だの、化け物だのって!  もしかして、あんたも……!?」 「ん、私は吸血鬼なんだけどもさ」 「……!」  さらり、と明かした片目の男の告白に、思わず息を飲んだけれども。  目の前に居るこの男は、ただ目が紅く、困ったようにほほ笑むだけだったから。俺は思わず、吸った息を大きく吐きだした。  その様子に、吸血鬼と名乗った男は、うんうん、とうなづいた。 「吸血鬼、って言ったって、さ。  別に、今、食事をしようって言うじゃなし。  ただ話をしている最中だもの。  普通は驚くなり、そんなのウソだ、と疑うなりしても、そういきなり悲鳴を上げて、怖がるモノでもないじゃないか?  ましてや、そちらの子どもは、川ほとりの神社、神主の息子だからさ。  これから、きっと長い付き合いになるし、仲良くしようと言ったのに、ねぇ」  言って、吸血鬼は深々と、ため息を吐いた。 「この、震える子どもには肝っ玉、というモノがないようだねぇ」 「……肝っ玉?」  聞き慣れない言葉に、首を傾げれば吸血鬼は、うん、とうなづくと、布団に仰向けになって寝転がっている俺の心臓の上辺りに『の』の字を書いてみせた。  すると、ぽう、と薄いピンク色に輝く光の球が、すぅっと、俺の胸に浮かぶのが、見える。 「な……何だ、コレ!」  自分のカラダからでて来た見覚えのないモノに驚けば、吸血鬼は感心したように言った。 「これが、肝っ玉。  妖とか、化け物なんか、普通はあり得ない不思議なことでも、恐れない、心。  お前の肝っ玉は、神主か霊能者並だねぇ。  まだ子どもだから大したことは無いけれども、鍛えれば、さぞかし立派なモノになるだろうさ。  この半分でも、もう一人の子どもに有れば、良かったのに」  吸血鬼はそう言うと、やれやれ、とため息をつき、寝そべっていた布団から起き上がると『ん~~ん』と軽く呻いて身体を伸ばした。 「き……吸血鬼……さん、は一体どこに行くの?」  ふわり、と音もなく立ち上がり、畳を歩く音も、着物の衣擦れもさせぬまま。  部屋を出て行こうとする彼を呼びとめれば、キレイな吸血鬼はふふふ、とほほ笑んだ。
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