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しばらく歩いた先にあるお屋敷を見て、俺は、ビックリして立ち尽くした。
大きい。
そして、とても立派だ。
「ここは……どこ?」
呆然とつぶやいた俺の背中から、ひょっこり顔を出した風音は、すぐにびゅっと引っ込んで、小声で言った。
「九尾狐のお屋敷だよ。
たしか現世の丁度ここに当たる所に、ウチの川ほとりの神社があるって聞いた……」
「……ってことは、お前ん家の神社が祀ってるのは……お稲荷さん、ってこと?」
「う……うん。一応」
風音は、相変わらず怖がって震えていたけれど、俺は却って落ち着いた。
だって、なぁ。
風音の父さんが、祀っている神社の神様だろ?
じゃあ、相手は知り合いなんだから、安全、安心じゃないか。
ここは、ヤクザな家に生まれたおかげで、豪華なモノは見慣れているはずの俺も、思わず尻ごみしてしまうほど、すごい家だ。
でも、今までの妖同様、いきなり暴れたりはしないんじゃないかな? ……とも思う。
今まで見た限りじゃ、風音自身はともかく、コイツの父親は、妖怪たちの人気者だし。
そして、ネコマタのコタロウもまた。
こんな立派なお屋敷の狐と顔見知りだったら、そんなに困ることなく、楽しく暮らせていけるのかもしれなかった。
だから俺は、震える風音に言ったんだ。
「ネコマタになったコタロウが、こんな立派な所に出入りしているなら、安心だよ。
風音が、怖いっていうのなら、もう、いいよ。
このまま、九尾の狐に会わずに帰ろう?」
俺の提案に、風音の顔がぱあっと明るくなり……けれども。
気がかりそうに首を傾ける。
「……もう、現世に帰っても良いの?
ここで帰ってしまったら、もう二度と大事な猫には会えないよ?」
二度と会えない。
そう言われて俺は、一瞬声が詰まったけれども、頑張ってうなづいていた。
神主の息子のくせに、心底この中有郷を怖がっている風音を、これ以上連れまわすわけにはいかなかったんだ。
「うん。どちらにしろ、盆踊りが終わるまでに、帰らないといけないし、ね」
本当かウソかは判らないけれども、吸血鬼だってヒトを襲うって宣言している。
コタロウの住処が、判った以上、このままのんびりしているわけには、行かないだろう。
だから、風音に言ったんだ。
「……九尾の狐には、会わないで、帰ろう」と。
ところが、だった。
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