二章

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   しばらく歩いた先にあるお屋敷を見て、俺は、ビックリして立ち尽くした。  大きい。  そして、とても立派だ。 「ここは……どこ?」  呆然とつぶやいた俺の背中から、ひょっこり顔を出した風音は、すぐにびゅっと引っ込んで、小声で言った。 「九尾狐のお屋敷だよ。  たしか現世の丁度ここに当たる所に、ウチの川ほとりの神社があるって聞いた……」 「……ってことは、お前ん家の神社が祀ってるのは……お稲荷さん、ってこと?」 「う……うん。一応」  風音は、相変わらず怖がって震えていたけれど、俺は却って落ち着いた。  だって、なぁ。  風音の父さんが、祀っている神社の神様だろ?  じゃあ、相手は知り合いなんだから、安全、安心じゃないか。  ここは、ヤクザな家に生まれたおかげで、豪華なモノは見慣れているはずの俺も、思わず尻ごみしてしまうほど、すごい家だ。  でも、今までの妖同様、いきなり暴れたりはしないんじゃないかな? ……とも思う。  今まで見た限りじゃ、風音自身はともかく、コイツの父親は、妖怪たちの人気者だし。  そして、ネコマタのコタロウもまた。  こんな立派なお屋敷の狐と顔見知りだったら、そんなに困ることなく、楽しく暮らせていけるのかもしれなかった。  だから俺は、震える風音に言ったんだ。 「ネコマタになったコタロウが、こんな立派な所に出入りしているなら、安心だよ。  風音が、怖いっていうのなら、もう、いいよ。  このまま、九尾の狐に会わずに帰ろう?」  俺の提案に、風音の顔がぱあっと明るくなり……けれども。  気がかりそうに首を傾ける。 「……もう、現世に帰っても良いの?  ここで帰ってしまったら、もう二度と大事な猫には会えないよ?」  二度と会えない。  そう言われて俺は、一瞬声が詰まったけれども、頑張ってうなづいていた。  神主の息子のくせに、心底この中有郷を怖がっている風音を、これ以上連れまわすわけにはいかなかったんだ。 「うん。どちらにしろ、盆踊りが終わるまでに、帰らないといけないし、ね」  本当かウソかは判らないけれども、吸血鬼だってヒトを襲うって宣言している。  コタロウの住処が、判った以上、このままのんびりしているわけには、行かないだろう。  だから、風音に言ったんだ。 「……九尾の狐には、会わないで、帰ろう」と。  ところが、だった。
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