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不思議な大豪邸にくるりと背を向けて、一歩、戻ろうとした時、だった。
ぴかっと、稲妻が光ったかと思うと、何かが近くの木に落ちてきた。
メキメキメキ、ドシンッ
そんな音を立てて、倒れる木にの衝撃に、俺と風音が飛びあがったのと、不機嫌な声が聞こえて来たのが、ほぼ一緒だった。
「気に入らんっ!」
とんでもない大声が、空から降ってきたので見上げれば、そこに怒り狂った顔の妖怪が飛んでいて。
肩から伸びた自分の翼を、ひゅうっと鳴らして俺達の目の前に、飛び降りる。
この妖が『何』かは、見れば一発で判った。
そう。
高い鼻に、山伏装束の、まるで昔の絵に出て来るような天狗だ。
彼は、一本足の下駄をカッカ、と鳴らして地面に着地すると、一枚の葉が五つに裂かれたヤスデの葉の扇を、びしっと俺達に突きつけて怒鳴った。
「この中有郷で一番偉いお館様にご挨拶もなく去ろうとするなど、無礼千万! 何者だ!」
「「うわわわっ! ごめんなさいっ!」」
天狗の恐ろしげな顔と剣幕に、俺達は二人、頭を抱えて謝ったんだけども、天狗は全く許してなんてくれなかった。
どこに逃げても、下駄を鳴らし、あるいは空を飛んで追いかけて来る。
「おのれ、ちょこまかと!
そこに直れ! 礼儀知らずは、頭からパリバリと喰ってやるぞ!」
「わーーー!」
「きゃーーー!」
俺達は、悲鳴を上げてそこらを逃げ回った。
けれども、とうとう。
風音と俺は、天狗に襟首を掴まれ、豪邸の扉の前まで誘導されるように追い込まれると、地面に引き倒されてしまったんだ。
そうやって、乱暴にお俺達の顔を確認した天狗は、喉の奥でぐう、と唸った。
「な……なんと!
貴様らは、川ほとり神社の神主の息子と……!」
なぜか……どうやら。
天狗は、まるで俺の顔も知ってるかのように、目を丸くして、言葉を続けようとした時だった。
豪邸の大きく重い木の扉がぎぎぎ、と開いて、誰かが声をかけてきた。
「……我が館の前で、騒がしい。
何事ぞ?」
低く、豊かな良い声だ。
今まで一度も聞いたことが無いほど……と思いかけ、俺は慌てて、首を振る。
ずーーっと前。
どこかで……聞いた事があるような……?
天狗に倒される、なんて。
とんでもない事態にも関わらず、あまりに良い声が、どっから響いているのか、辺りを見回したら、風音と目があった。
ヤツの驚いたような顔っきを見るにっけ。どうやら、風音も同じ気持らしい。
特に合図も何もなく、偶然二人揃って見上げた視線の先に『それ』がいた。
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