二章

17/23

105人が本棚に入れています
本棚に追加
/51ページ
 不思議な大豪邸にくるりと背を向けて、一歩、戻ろうとした時、だった。  ぴかっと、稲妻が光ったかと思うと、何かが近くの木に落ちてきた。  メキメキメキ、ドシンッ  そんな音を立てて、倒れる木にの衝撃に、俺と風音が飛びあがったのと、不機嫌な声が聞こえて来たのが、ほぼ一緒だった。 「気に入らんっ!」  とんでもない大声が、空から降ってきたので見上げれば、そこに怒り狂った顔の妖怪が飛んでいて。  肩から伸びた自分の翼を、ひゅうっと鳴らして俺達の目の前に、飛び降りる。  この妖が『何』かは、見れば一発で判った。 55f115c6-19d8-42d5-b0ff-a6a5afc21081  そう。  高い鼻に、山伏装束の、まるで昔の絵に出て来るような天狗だ。  彼は、一本足の下駄をカッカ、と鳴らして地面に着地すると、一枚の葉が五つに裂かれたヤスデの葉の扇を、びしっと俺達に突きつけて怒鳴った。 「この中有郷で一番偉いお館様にご挨拶もなく去ろうとするなど、無礼千万! 何者だ!」 「「うわわわっ! ごめんなさいっ!」」  天狗の恐ろしげな顔と剣幕に、俺達は二人、頭を抱えて謝ったんだけども、天狗は全く許してなんてくれなかった。  どこに逃げても、下駄を鳴らし、あるいは空を飛んで追いかけて来る。 「おのれ、ちょこまかと!  そこに直れ! 礼儀知らずは、頭からパリバリと喰ってやるぞ!」 「わーーー!」 「きゃーーー!」  俺達は、悲鳴を上げてそこらを逃げ回った。  けれども、とうとう。  風音と俺は、天狗に襟首を掴まれ、豪邸の扉の前まで誘導されるように追い込まれると、地面に引き倒されてしまったんだ。  そうやって、乱暴にお俺達の顔を確認した天狗は、喉の奥でぐう、と唸った。 「な……なんと!  貴様らは、川ほとり神社の神主の息子と……!」  なぜか……どうやら。  天狗は、まるで俺の顔も知ってるかのように、目を丸くして、言葉を続けようとした時だった。  豪邸の大きく重い木の扉がぎぎぎ、と開いて、誰かが声をかけてきた。 「……我が館の前で、騒がしい。  何事ぞ?」  低く、豊かな良い声だ。  今まで一度も聞いたことが無いほど……と思いかけ、俺は慌てて、首を振る。  ずーーっと前。  どこかで……聞いた事があるような……?  天狗に倒される、なんて。  とんでもない事態にも関わらず、あまりに良い声が、どっから響いているのか、辺りを見回したら、風音と目があった。  ヤツの驚いたような顔っきを見るにっけ。どうやら、風音も同じ気持らしい。  特に合図も何もなく、偶然二人揃って見上げた視線の先に『それ』がいた。  
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

105人が本棚に入れています
本棚に追加