二章

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25c34052-ca61-4bb7-8c4e-048d0a0f6fd0  立派な九本の尻尾を持ち、まるで王冠のように美しい毛皮の耳が頭の左右を飾っている。  この豪華な館の主(あるじ)らしい、九尾の狐、自身だったんだ。  青白い炎に照らされた、凛、と美しい立ち姿だった。  白地に緋の入った麗しい神主のような服を着て、左手に白地に茶色の斑点のある、二本尻尾の猫を抱えている。  俺が、ずっと探していたコタロウだ。  そして……もうひとつ。  とても気になる記憶に、言葉が口をついて、でた。 「「お母さん……」」  これも、隣に抑え込まれて居る風音と重なってびっくりした。  豪奢な館から出て来た九本尻尾の狐は、とてもキレイだとはいえ明らかに……間違えようもなく『男』の姿をしている、というのに!  しかも、よりによって、声を合わせて『お母さん』呼ばわりだ。  風音の方は、恥ずかしかったのか……怖いのか。  あっという間に顔を伏せてしまったけれども、俺は、この九尾の姿から、目が離せなかった。  じっと見つめる俺に、九尾の狐は、ふっと息を吐いた。 「我は雄である上、一人身だ。  貴様らから母親呼ばわりされる覚えはない。  ……が。  我には、二人の妹がいたな。  どちらもヒトに心を奪われ、恋をして……今では、一人がチリとなり。  もう一人は、消える寸前まで、力を落としてしまったが」  言って九尾の狐は、俺を睨(ね)めつけるように見た。 「今、我は思案の最中なのだよ。  二人の妹を失ってなお。  ヒトを愛しく慈しむか、それとも、憎むべきか」  母さんに良く似た狐の妖には、妹が二人、だって?  もし、予感と話しているコトが一緒だと言うのなら!  この九尾の狐が俺の母方の伯父で……この怖がりな風音は……従兄弟って事になる。  ……聞いて無かった。  母さんがずっと前に死んだ、という以外、何も。  俺の母方に、従兄弟や親戚がいる事さえも、全く知らなかった。  一族だの『何代目』とかにこだわる家系のはずなのに、母方の親戚と付き合っていなかったのは、やくざなどじゃなく、普通の一般家庭だったからじゃないのか。  この九尾の狐の言っているコトが良く判らない。  「狐……」と思わず呟けば、九尾の狐は、不機嫌そうに俺に言った。
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