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「貴様の父親のことは大嫌いだ。
『やくざ』だか何だか知らないが、欲にくらんで、妖の住処を簡単に壊すだけでなく。同族であるヒトでさえも、無闇に傷つける狂気の男だ。
妹のことも、半ば無理やりに手込めにしたと聞く。
あまりの先行きの不安さに、心労を患い、死した後でも成仏できず。
死んだ猫にとりつき、時々見守っていたとか」
……え?
九尾の狐の言葉に、俺は、耳を疑った。
コタロウが一体『何』に取りつかれてたって!?
「母さ……!」
思わず、九尾の狐の腕の中に居るコタロウに向かって伸ばした手を、げしっと天狗に踏んづかれた。
「痛っ……!
何するんだよ!」
「九尾さまの妹君は、慣れない猫にとりついて、魂が消える寸前まで消耗しておる。
貴様が如何に、妹君の子どもとは言え、今は妹君に肉体は、無い。
どうやらここまで歩いて来られたものの、不浄なヒトに触れられたら、取り返しがつかなくなるだろうが!」
俺が、そう天狗に怒鳴られている横で、九尾の狐は、さて、と風音の方を見た。
「一方で、貴様の父君のことは、嫌いではない。
野山を愛し、ヒトを慈しみ。
人柄が良いだけでなく、異界と現世の隙間にこの中有郷を作ったほどの、すご腕の術師でもある。
貴様の父に惚れたもう一人の妹が、嫁いで行ったのは、一族の誇りにしても良い。
……が」
言って、九尾の狐は、形の良い眉をきりり、と寄せた。
「その、臆病加減は、一体なんだ!
貴様、川ほとり神社、神主の息子だろうに!
自らにも、妖の血が半分流れているというのに!
なぜ、妖の気配に怯え、逃げまどう!?
貴様があの男の息子だと言うのなら。
真面目に修行し、精進して術を極めれば、我を含めた全ての妖が膝を折る、偉大な術師となるやも知れぬのに!」
今の貴様では、全く従う気にもなれぬ、と狐が咆えた。
そんな九尾の狐に、風音は顔も上げられずに、震えている。
その様子を見ているうちに、何やらだんだん俺は腹の一つも立って来た。
「確かに、何でもかんでも怖がる風音もどうかと思うけど!
大人だって、たまにはお化けが怖い奴だっているのに、なんで風音ばかりが責められなくちゃいけないんだよ!」
実はとても近い身内だったって判ったからか、どうか。
一人っ子だった俺にいきなり、弱っちぃ弟が出来て、庇う気になったのは確かだった。
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