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二匹の妖と風音の間に入って、大声を出した俺を狐は睨む。
天狗は邪魔だ、とばかりに俺の手を引っぱり、藪に向かってぽーーい、と放り投げた。
「うわわわわ!」
いくら頑張ってみようと思っても、十(とお)に満たない軽いカラダのガキじゃ、何も抵抗できずに、まるで自分がサッカーボールにでもなった気分だ。
風音から引きはがされた、かと思うと、見事な弧を描き、藪に向かってドスン、と落される。
「あいたたたた!」
あまりの痛さに涙目になったとはいえ。
現世で同じ高さから落ちたら、こんなものでは済まなかったろう。
それでも打った腰をさすりながら立ち上がろうとすれば「大丈夫かい?」と、俺の手を取って、立つのを助けてくれる者がいた。
しっとりとした和服美人のおねえさんだ。
彼女の紅い瞳が、自分も『人間じゃない』と教えてくれた、少し気の強そうな女のヒトだったけれども、全体の雰囲気が優しげなのでちっとも怖くない。
俺は、素直に手を取って、首を傾げた。
「お姉さんは、誰?」
「わたし? わたしは、砂かけ婆さね」
「婆(ばばあ)?」
皺なんて、一本もない。
白くみずみずしい肌に、豊かに長い黒髪がキレイだ。
俺が『婆』なんて言ったのは、別にこのお姉さんが年を取って見える、というわけじゃ無い。
びっくりしたから、なんだけれども。
その姉ぇさんは、俺の頭をげし、と叩いた。
「誰が婆だ。わたしはそう言う名前……というか種族だ」
「う……うん」
叩かれた頭を撫で撫で頷けば、婆のお姉さんは、うん、とうなづいた。
「いつもならば、夜。
道行く人に、砂を撒いて驚かせるだけの妖なんだがね。
今夜はちょっとしゃしゃり出させてもらうよ」
言って、砂かけ婆なお姉さんは、九尾の狐の前に取り残され、天狗に怒鳴られて震えてる風音を指差した。
「あの子が、臆病な事は知っている……が、このままでは非常にまずいのだよ」
砂かけ婆に言われるまでもなかった。
風音がまともに挨拶出来なかったから、吸血鬼はヒトを襲いに行くと言う。
出来れば仲良くなりたそうにしている妖もいると言うのに、風音が怖がっているもんだから、扱いに戸惑っている。
面鬼は、風音が妖に愛想を尽かされたら、地獄に引きづり込むって言うし……!
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