二章

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 風音がこのままで良いことなんて、一つもなかった。 「……ねぇ、なんともならないの?」  とうとう心配になって聞けば、砂かけ婆は、俺に流し目をくれた。 「ああ、なんともならないね……と言いたい所だが、方法が無いわけじゃない」 「何だよそれは!?」  勢い込んで聞く俺に、婆は即答した。 「子ども。  お前の『肝っ玉』を風音に貸してはくれまいか?」 「肝っ玉を貸す……!?」  さっき、布団を敷きつめていた和室で、吸血鬼から『肝っ玉』の話を聞き、実際に、見た。  肝っ玉とは、妖を見ても恐れない心で、風音には全く無いモノらしい。  ……けれども。 「そんなモノ……ヒトに貸すことなんて出来るの?」  湧いた疑問に、砂かけは答える。 「もちろん、普通の人間同士や、赤の他人だとしたら、無理かもしれないな。  だけど風音とお前は、血縁関係があるんだろう?」  ああ、九尾の狐の言っているコトが本当だったら、俺と風音は従兄弟、らしいし。  今日知ったその話は、俺に家族が増えたのと同じだった。  水に落ちた俺を助けにここまで来てくれた以上。  俺の方でも、風音に、何かをしてやりたいな、という気は満々にある。  ……でも。 「もし、その『肝っ玉』って言うのを風音に渡したら……今度は俺が怖がりになるって言う事だよな?」  俺の方だって、事情があるんだ。  実家であるやくざの『龍堂組』を継ぐ事が決定した以上、何かと怖がってばかりでは、イケナイことぐらい、知っている。  ちょっと怯んだ俺の言葉に、砂かけ婆の姉さんは、ふふん、と鼻を鳴らした。 「わたしらが、どうこう出来るのは、妖に関してだけだ。  他のことについては、知らないね。  でも、心配だと言うのなら、神主の息子には、ヒトを助けに水に飛び込む勇気があるのだろう?  お前に、そんな勇気と度胸が無いと言うのなら、妖を恐れない肝っ玉を貸す代わりに、ヒトを思いやる勇気を奪って行けばいい」 「ひ……ヒトのために水に飛び込む勇気ぐらい、俺にだってあるさ!」  実は、お前も別な種類の臆病者じゃないのか?  そんな言い草が聞こえてきそうな、砂かけの言葉にカチン、と来て言い返せば、彼女は、ころころと笑った。
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