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誰を? なんで『俺を』見つけた、なんて言うんだ!?
そんな疑問は、結局も声にはならなかった。
なにしろ、その女の子ときたら!
切れ切れの包帯の端と、ぐるぐる巻いた布の隙間という隙間の肌から、目をぎょろりと覗かせている、モノだったんだ……!
明らかに人間と違うその様子に、俺の神経は限界だった。
うぎゃああぁぁぁあああぁぁあ!
我ながら、恥も外聞もない。
ワケの判らない叫びを口から垂れ流しながら、ちゃんとした人間が詰めているはずのナースステーションの光の中に、飛び込んだ。
「ど……どうしたんですかっ!?」
そんな派手なわめき声を上げながら、突然やって来た俺を迎えてくれたのは、一人の白衣を着た男だった。
どっかの俳優みたいに整った顔を、賢そうな銀縁眼鏡で隠している。
細く、華奢な身体を覆う白衣の胸にプレートが光り、そこには『雪村 風音(ゆきむら かざね)』という、名前が見えた。
「ゆっ……雪村せんせぇ」
「おや、龍堂さんじゃないですか」
俺の名前を呼んでくれたコイツには、力一杯見覚えがある。
俺の手術を担当した医師で、主治医だ。
医師免許貰って、何年も経っているわけじゃねぇから「日々勉強デス」なんぞとのたまう真面目野郎だが、腕はそこそこで悪くない。
……でも、今は、ヤツの手術の腕前の良し悪しよりも、俺と知り合いかどうか、が死ぬほど大事だった。
だって、良くある話じゃねぇか!
散々お化けに脅かされ、逃げ回った挙句。
通りすがりに、助けを求めたのはいいけれども、実は助けてくれたその本人も、化け物だった、ってそう言うオチ!
ソレ、話としては面白れぇかも知んねぇけど、身を持っての実体験なんざ、絶対したくも無ぇ。
だからと言って、医者に正直に『化け物を見ました』といった日には『うん、判った』と頷かれ、精神科への紹介状を持たされて放りだされるのは目に見えている。
とりあえず知り合いに会ったということと、ナースステーションのの灯りにほっとして、どうしたもんかなぁ、と頭をバリバリと掻いていると、雪村先生が、すぃ、と目を細めた。
「ねぇ……龍堂さん。
もしかしたら、あなた『見た』んじゃ無いですか?」
「ななななな、何を、でしょう?」
「例えば……化け物、とか」
「そそそそ、そんな顔をしてますか?」
ずばり、と指されて、心臓が跳ね上がる。
裏返った俺の声に、ため息をついて、雪村先生は話を続けた。
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