二章

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「キレイな肝っ玉の他に、勇気を持ち合わせていれば、結構なこと。  では、肝っ玉を、ただで貸しても良いんだね?」 「う……う、ん」  今思えばなんとなく、良いように乗せられていた気もするが 、仕方がない。  うなづいた俺に、砂かけが、ちょっと淋しそうに笑った。 「ありがとう。  では、お前の肝っ玉は、神主の息子のために、ちょっと借りてゆくよ?  なあに、一生借りっぱなし、ということはないさ。  川ほとり神社の一族は、代々妖と交わり過ぎててね、短命なんだよ。  どんなに遅くとも、お前が分別盛りになる四十までには、返そうね」 「……四十歳?」  今見た限り、風音と俺は、年が二、三と離れて見えない。  それは、風音がどんなに遅くとも四十前に死んでしまうと言うことなのか。  驚いた俺が聞き返す暇があればこそ、だった。  砂かけ婆の姉(あね)さんが、吸血鬼が俺にしたように、胸にのの字を描きだした。  すると。  俺の胸から、ぱぁっと光があふれてキレイな玉が出て来た。  これが、妖を恐れない気持ち。  肝っ玉だ……!  そんな風に見ているうちに俺の肝っ玉は、砂かけ婆の手で、サラサラの砂みたいに砕かれたかと思うと、ぱららっ、ぱららっと風音に向かって投げつけられる。  キラキラと輝く砂粒のような俺の肝っ玉が、風音に降り注ぐにつれ。  うづくまっていた風音の様子が、変わる。  だんだんと、背筋を伸ばし、前を向き。  二本の足で、しっかりと地面を踏みしめだした。  そして、俺の肝っ玉のほとんどが、風音に降り注いだその時だった。  風音は、一度深く頭を下げて礼をすると、きりっと顔を上げて妖の名前を呼んだ。 「九尾の狐殿」 「ああ」 「天狗殿」 「おう」 「砂かけ婆殿」 「あいよ」  風音の声は、ちっとも震えず、その場に居る妖を堂々と呼ぶごとに、返事が来る。  そして。  「狸殿、赤しゃぐま殿、吸血鬼殿、水妖殿、鵺殿、髪女殿、墓の門番殿、百目殿、笑い女殿、ガシャ髑髏殿、唐笠殿、弔い鬼殿……」  この中有郷に来てからこっち、出会った妖や、まだ知らない妖怪たちの名前が、次々に呼ばれると、吸血鬼を除いたほとんどすべての妖がぽぅ、と光る玉になって集まって来た。  そして、皆。  風音の前で、元の妖に戻る。  いきなり大勢うじゃうじゃと集まって来た妖が、全部風音を見ていたけれども、風音は怖がらずに、凛、と声を張った。
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