三章

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   ヒィーーヨゥーーー  子どもの頃。  夜に響く哀しげな、こんな音が、怖くてさ。  父方の婆ちゃんに泣きついたら、婆ちゃんはきっぱりと言ったモノだった。 「それは、夜鳴く『トラツグミ』って言う鳥だよ」と教えてくれてさ。  後で、スマホで検索してみたら、確かに。  そんな鳥が、同じように鳴いている動画を発見して一応は納得した。  けれども、一緒に検索一覧に『鵺 ヌエ (トラツグミ) 鳴き声』ってヤツも見つけて、凍った覚えがある。  鵺(ぬえ)……鵺。  頭が猿で、手足が虎。  おまけに、尻尾が蛇だと言う妖怪の話だ。  江戸時代に騒がれた架空の妖怪で、現実世界に居るわけがなく。  当然見たこともないはずなのに、何だか妙に耳になじむ言葉だった。  だから、相手が夜の鳥だって判っている大人になっても、怖いモノは怖いヤツの一つだ。  そんなモノが怖いって、大のオトナが情けねぇって?  うっせえな!  関東一円を支配するヤクザの二代目候補だって、怖いモノはあんだよ !  本物の拳銃(チャカ)に銃口を向けられても全く平気だが、化け物の気配には弱いんだ!  仕方ねぇだろクソ!  ……なんて、さっきからぶつぶつと腹の中で悪態をついているのは実際に『ソノ音』を聞いてるからだ。  しかも、気が付いたら俺は、もふもふごわごわの動く毛皮の上にうつ伏せに寝かされているようで……  ああそうだよ!  この、もふもふ毛皮が化け物の端くれだったら、どうしようなんて。  怖くて目が開けられなくて、悪かったな!  そんな、まるで悪態が聞こえたかのようなタイミングで、今度は俺自身を呼ぶ声がした。
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