三章

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「龍堂さん! 龍堂 力也さん!」みたいな、切羽詰まったその声を無視出来ず。  嫌々開いた目の前に、超~~見たく無ぇ光景が、広がっていやがったんだ。 ed54ccda-f3e3-4cd4-9d3b-c98251294238  俺は案の定。  『鵺』って言う妖怪の上に、うつ伏せに寝ていて。  ふっと目を上げると、ここは、病院から出た辺りの道路だった。  ごく普通に歩いている、妖には全く気がつかない一般人に重なるようにして、とんでもない数の妖が、いた。  行きかうヒトの間を。  スピードを上げる車の間をすり抜けて、川の流れのように、流れ、歩いている妖達のド真ん中に居た。 「うっぎゃ……」  この世で最もオソロシイ光景に、飛び起き、叫び声をあげそうになった俺を、後ろから押さえつけ、口をふさぎやがったのは……!  ゆっ……雪村……風音!  今にも腹の底から出そうな俺の叫び声を止めたのは、ヤツだったんだ。  病院で百鬼夜行を見て、髪女に捕まり、膨大な髪に締め付けられて、意識を失い。  子どもの頃の記憶を思い出すような夢を見た。  そこに出て来た怖がりの子どもが……雪村先生……風音だ。  今まですっかり忘れていた、川ほとり神社、神主の息子だった。  風音は、昔の記憶の通り、そのまま大人になったように見えるのに、なんで今まで気がつかなかったんだろう!?  記憶の混乱と目の前に溢れる妖怪どもの群れにパニックになってじたばたと鵺から逃げ出そうとする俺に、風音はのしかかるように自分のカラダを押し付けると、耳元で小声でささやいた。 「今、ここで大声を上げてはいけません。  ……妖に寄ってたかってもみくちゃにされた挙句。  百鬼夜行に呑み込まれて、二度と現世に帰ってこれなくなりますよ」  「てめ! 良く見りゃ、風音じゃないか……」  俺の口をふさぐ手をもごもごと外し。  けれども小声で言い返したら、風音は、ふぃと目を細めた。 「おや。髪女に、意識を持って行かれて……過去を思い出しましたか?」 「夢は……見た」  現実の記憶、とは中々言えない体験だった。  祭りの日、面鬼に連れられて片足を突っ込んだ妖怪たちのいる……確か、中有郷とか呼ばれる場所の夢だ。  その時、面鬼から助けてくれた鵺の背に、今も、また。  俺自身が生霊と呼ばれ、風音と一緒に乗っているなんて……!  これもまた、現実だなんてちっとも思えない。  例え、この状況が夢だとしても、とびきりの悪夢以外、何物でも無ぇ。
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