三章

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「クソ……今乗ってる『鵺』だって、昔はもう少し可愛げがあったろ!」  今、ここに居る鵺は、ガチで怖い。  あれから何年経ったのか。  妖怪も子どもから大人にでもなったのか、と。  口の中でぶつぶつ言う俺の声を耳ざとく聞いて、風音が静かに声を出した。 「……やっぱり、子どもの頃の記憶、思いだしていたんじゃないですか」 「うるせー」 「……鵺の姿は、昔と変わりませんよ。  変わったのは『あなた』の方ですから」 「それは、妖を恐れない肝っ玉ってのが無いから、ってか?」 「ええ。  恐怖、って言うのは、絶対的に存在するモノでなく、受け手の主観のみで感じるモノです。  だから、最初の時は、かわいらしい、と感じたモノも、今見れば、リアルで恐ろしげな怪物に見える……」  だから、見てください、と。  風音は、通りすがりの屋台の飲み屋を指差した。 c0aac3f5-b1e8-4ab3-8544-7c4c34aa2535  この飲み屋は、病院と同じく、百鬼夜行の道筋のど真ん中にあったから、妖共は、通り過ぎる前に、色々悪戯してから、通るらしい。  一人は、全く気にせず酒をかっくらっているにも関わらず。  もう一人は、気配を感じているのか……それとも、実際に妖共の姿が見えているのか。  何か、モノ言いたげにこちらを見て、震えている。  コレは、肝っ玉の有る無しに関わっているのかどうかは、判らない。  ただ、酒を飲んで注意力が散漫なだけかは判らなかったが……確かに妖に『恐怖』を感じる度合いに、個人差があるようだった。 「ちぇ。  そこまで判ってるなら、淡々と説明する前に、肝っ玉を半分返せよ!」  そう、ぶつぶつと文句を言えば、風音は「ええ」とうなづいた。 「半分とは言わず……今夜、全部お返ししますよ」 「……え?」  全部、だとう!? 「それは一体どういうことだよっ!」  ……川ほとり神社の家系は、短命だから。  どんなに遅くなっても、四十前には返そうねぇ。  なんて言った砂かけ婆の姉さんの声を、鮮明に思い出す。  ……おい、俺は、今年で幾つだったっけ!?  結局、最初で最後になった川ほとりの神社の祭りに行って、何年経ったっけ!?  慌てる俺に、風音はふぃ、と笑った。
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