105人が本棚に入れています
本棚に追加
/51ページ
「クソ……今乗ってる『鵺』だって、昔はもう少し可愛げがあったろ!」
今、ここに居る鵺は、ガチで怖い。
あれから何年経ったのか。
妖怪も子どもから大人にでもなったのか、と。
口の中でぶつぶつ言う俺の声を耳ざとく聞いて、風音が静かに声を出した。
「……やっぱり、子どもの頃の記憶、思いだしていたんじゃないですか」
「うるせー」
「……鵺の姿は、昔と変わりませんよ。
変わったのは『あなた』の方ですから」
「それは、妖を恐れない肝っ玉ってのが無いから、ってか?」
「ええ。
恐怖、って言うのは、絶対的に存在するモノでなく、受け手の主観のみで感じるモノです。
だから、最初の時は、かわいらしい、と感じたモノも、今見れば、リアルで恐ろしげな怪物に見える……」
だから、見てください、と。
風音は、通りすがりの屋台の飲み屋を指差した。
この飲み屋は、病院と同じく、百鬼夜行の道筋のど真ん中にあったから、妖共は、通り過ぎる前に、色々悪戯してから、通るらしい。
一人は、全く気にせず酒をかっくらっているにも関わらず。
もう一人は、気配を感じているのか……それとも、実際に妖共の姿が見えているのか。
何か、モノ言いたげにこちらを見て、震えている。
コレは、肝っ玉の有る無しに関わっているのかどうかは、判らない。
ただ、酒を飲んで注意力が散漫なだけかは判らなかったが……確かに妖に『恐怖』を感じる度合いに、個人差があるようだった。
「ちぇ。
そこまで判ってるなら、淡々と説明する前に、肝っ玉を半分返せよ!」
そう、ぶつぶつと文句を言えば、風音は「ええ」とうなづいた。
「半分とは言わず……今夜、全部お返ししますよ」
「……え?」
全部、だとう!?
「それは一体どういうことだよっ!」
……川ほとり神社の家系は、短命だから。
どんなに遅くなっても、四十前には返そうねぇ。
なんて言った砂かけ婆の姉さんの声を、鮮明に思い出す。
……おい、俺は、今年で幾つだったっけ!?
結局、最初で最後になった川ほとりの神社の祭りに行って、何年経ったっけ!?
慌てる俺に、風音はふぃ、と笑った。
![c0aac3f5-b1e8-4ab3-8544-7c4c34aa2535](https://img.estar.jp/public/user_upload/c0aac3f5-b1e8-4ab3-8544-7c4c34aa2535.png?width=800&format=jpg)
最初のコメントを投稿しよう!