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「昔……子どもの頃。
力也に肝っ玉を借りたんですけれど……結局は、ね。
そう、使うこともなかったんです」
「……え」
どういうことだ?
そう、使うこともなかった、って!
今でも、こうやって鵺を操り、百鬼夜行の中に居るっていうのに!
おそらく、思い切り怪訝な顔をしているだろう俺の耳元に、風音は自分の唇を寄せてつぶやいた。
「……もう、手遅れ、だったんですよ」
「ああ?」
「力也が、僕に肝っ玉を貸してくれた夜。
ヒトを襲う、と宣言して吸血鬼が中有郷を出て行く、って宣言したでしょう?
僕たちは、盆踊りが終わる前に、中有郷を出ることは出来ましたが……吸血鬼がヒトを襲うのを止められるほど、早くは、戻ってこれなかったんです」
言って、風音は深々とため息を吐いた。
「吸血鬼は盆踊りに集まった客の中のうち、数人から血液を奪い『食事』をしてしまいました。
普通、現世の人間には、妖が見えません。
吸血鬼が血を吸った、なんてありえない不祥事案件は『急な心臓発作』とかで片付くモノですが……
あの日は、僕の実家の川ほとり神社の盆踊りで、人出が多く、中には妖の見える方もいて、人死にも出る大騒ぎになりました」
「何……!」
思わず大声を出そうとした俺の口を、風音はかぽっと塞いでささやいた。
「だから、大声を出しては行けません。
それにまだ、続きがあります」
なんだよ、それは!
なんとなくもったいぶった風音の言葉に、俺は早く言え、と睨めば風音は、重い口を開いた。
「もともと、川ほとりの神社付近には、駅が出来る予定だったんです。
区画整理の名目で地上げ屋が、うろうろしていました。
そこに、人死に込みの大事件じゃないですか。
相手の地上げ屋も、地元出身のせいで、あることないことを吹聴し……数百年の伝統のある神社も、陰陽的な意味も、霊力もない場所に、縮小移築、され……結局。
何の意味もない箱と成り、後から火災で燃えっき、解体してしまったんです」
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