三章

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 神社、という目印を失って、現世と異界を繋ぐ中有郷も、後を追うように崩壊した。  居心地のいい住処を失った、川ほとり神社の妖怪たちは怒り狂い、中有郷の崩壊にかかわった人物を見つけ出しては、襲うと言う。  具体的には、現世でさまよえる魂を見つければ、百鬼夜行の列に無理やり押し込んでフルボッコにした挙句、異界に攫(さら)ってゆくのだそうな。  うぁ、おっかねぇ!  思わず、なんまんだぶ、と手を合わせて俺は、知りたくもない事実に思い当たる。 「えっと……じゃあ。  今の、俺の状況は……」  恐る恐るつぶやく俺に、風音は答えて言った。 「バチアタリにも、神社の地上げを行った地元団体ってね『龍堂組』って言うんですよ」 「うぁ、やっぱり! それは俺ん家じゃないか!」  だから、笑い女は、脅かすように笑い。  百目の少女は『見つけた』と言い。  髪女は俺のことを『百鬼夜行の主役』とか言って、ぎゅうぎゅうと締めあげたんだ!  きっと風音だって、自分の神社を崩壊させた龍堂組に恨みがあるに違いなかった。  こんな風に悠長に、鵺なんぞの背中に乗っている場合ではない。  虎の両足を持っているくせに、百鬼夜行の他の妖怪たちよりも足が遅く、いろんな妖には抜かされているけれども。  風音は俺を逃がさず、確実に異界へ連れていくために、鵺に乗せているのではないのか?  こっそり鵺から逃げる方向で、身体をねじったら、さとい風音に、ぎゅ、と身体を抑えつけられた。  ぐえ。  逃げられ無ぇ。 「元々、神社があった場所は今、どうなっているんだ?」  あまり聞きたく無ぇ話だが、無駄な逃走計画をごまかすように質問したら、風音が睨んだ。 「……それが丁度、駅裏にある家。  この街の人々が4時44分に、側を通ると良くないと噂している空き屋です」 fc8f2448-6e1d-49f8-92da-ea998052e209 「う……それって……」  嫌な予感しかしやがらねぇ!  聞いた俺に、風音はうなづいた。 「百鬼夜行の終点ですよ。  ここで4時44分に、夜が明ける季節。  コカトリスの鳴き声と共に、異界への扉が開くのです。  現世にやって来た妖共だけでなく。  百鬼夜行で見つけ、捕まえた人間の霊体を、異界に引きづり込むために、ね」
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