105人が本棚に入れています
本棚に追加
/51ページ
神社、という目印を失って、現世と異界を繋ぐ中有郷も、後を追うように崩壊した。
居心地のいい住処を失った、川ほとり神社の妖怪たちは怒り狂い、中有郷の崩壊にかかわった人物を見つけ出しては、襲うと言う。
具体的には、現世でさまよえる魂を見つければ、百鬼夜行の列に無理やり押し込んでフルボッコにした挙句、異界に攫(さら)ってゆくのだそうな。
うぁ、おっかねぇ!
思わず、なんまんだぶ、と手を合わせて俺は、知りたくもない事実に思い当たる。
「えっと……じゃあ。
今の、俺の状況は……」
恐る恐るつぶやく俺に、風音は答えて言った。
「バチアタリにも、神社の地上げを行った地元団体ってね『龍堂組』って言うんですよ」
「うぁ、やっぱり! それは俺ん家じゃないか!」
だから、笑い女は、脅かすように笑い。
百目の少女は『見つけた』と言い。
髪女は俺のことを『百鬼夜行の主役』とか言って、ぎゅうぎゅうと締めあげたんだ!
きっと風音だって、自分の神社を崩壊させた龍堂組に恨みがあるに違いなかった。
こんな風に悠長に、鵺なんぞの背中に乗っている場合ではない。
虎の両足を持っているくせに、百鬼夜行の他の妖怪たちよりも足が遅く、いろんな妖には抜かされているけれども。
風音は俺を逃がさず、確実に異界へ連れていくために、鵺に乗せているのではないのか?
こっそり鵺から逃げる方向で、身体をねじったら、さとい風音に、ぎゅ、と身体を抑えつけられた。
ぐえ。
逃げられ無ぇ。
「元々、神社があった場所は今、どうなっているんだ?」
あまり聞きたく無ぇ話だが、無駄な逃走計画をごまかすように質問したら、風音が睨んだ。
「……それが丁度、駅裏にある家。
この街の人々が4時44分に、側を通ると良くないと噂している空き屋です」
「う……それって……」
嫌な予感しかしやがらねぇ!
聞いた俺に、風音はうなづいた。
「百鬼夜行の終点ですよ。
ここで4時44分に、夜が明ける季節。
コカトリスの鳴き声と共に、異界への扉が開くのです。
現世にやって来た妖共だけでなく。
百鬼夜行で見つけ、捕まえた人間の霊体を、異界に引きづり込むために、ね」
最初のコメントを投稿しよう!