一章

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「今日は、ね。  年に数回ある、百鬼夜行の日、なんですよ。  ここの裏の墓地から、最寄の川ほとり駅裏の空き屋までが、丁度百鬼夜行の道になっていて、この病院の真ん中を通ります。  深い業を持ったまま死んで、幽霊や妖怪になった方だとか。  生きていても、妖怪化してしまった人やモノが、百鬼夜行に気がつき、惹かれて混ざって、歩き。  夜明けを告げる妖が鳴くまでつきあった者は、この現世を離れ、魑魅魍魎の住む、化け物の世界に連れて行かれるそうですよ」 「夜明けを告げる妖……」 「最近は、雄鳥とトカゲの間に生まれたコカトリスが多いみたいです」  だから、今日は不思議なモノが見えてもおかしくないんです、なんて。  雪村センセは、普通の病気の診断をするようにまるで、何でもないことのように言いやがった。  いや、確かに化け物の話をしてくれるのは、俺にとっちゃありがたいが…… 「仮にもあんた、医者、だろう?  そんな話を、真面目に話してもいいのか?」  心配になった俺に、雪村センセは、苦く笑った。 「だって、僕にも見えるんですから、仕方ないでしょう?  例えば、ホラ、あそこ」 「……へ?」  雪村先生が、指差した場所は、本当はちらり、とも見たくなかった病院裏の墓で……  でも、思わず俺の目をくぎ付けにしてくれたのが、墓の門番ともいえる何か、だった。 3bb732df-4010-4ba3-be18-1aebd325ee57  暗い街灯に、ぼんやりと映しだされた墓石群の一つに居るのは、確かに異形。  それが、化け物世界と人間界を繋ぐ扉の門番だと、雪村先生は、淡々と語る。  驚いて、声も出ねぇ俺に、雪村先生は肩をすくめてみせた。 「僕の実家が、ここら地元の神社でね。  百鬼夜行は、子どもの頃から時々見てるんですが……  百鬼夜行の門が開く前から、魑魅魍魎がうろうろしているなんて!  今日は、特別大きくなりそうですね」  どうしてでしょうかね? などと。  意味深にこちらの方へ視線を向ける雪村先生に、俺は力一杯、ぶんぶんと首を振った。 「お……俺のせいじゃないぞ!」 「……本人に、自覚症状なし、と」 「俺のせいだって言うのかよ!」  力一杯叫ぶ俺に、雪村先生は『おや、違うんですか?』と片眉をひょい、とあげた。
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