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「あなたも、母が狐の半妖(はんよう)ならば、死んでゆく先も、天国、地獄でなく『異界』でしょう?
はじめて出会った、子どもの頃の盆踊りの日。
あなたとの中有郷めぐりは、そう嫌なモノでも無かったです。
怖かったですが……楽しかった、と言っても良い。
……これからの異界への道行きも、あなたと一緒なら。
今まで死ぬのに怯えていたこの心も、きっと晴れるでしょう」
言って、鬼の姿になった風音は、うつ伏せだった俺を素早くひっくり返すとこの首に手をかけて、しめあげた。
「う……」
……苦しい。
俺のカラダは、病院のベッドに瀕死の姿で、寝転がっていて、生霊の状態だと言うのに!
そう言えば、髪女に巻きつかれても苦しかったな、と切羽詰まった状況に、余計なことを考えて、苦笑する。
風音の言い草に、なんて自分勝手なヤツなんだろう! とは、思ったけれども。
思いだしてしまったのだ。
首を絞める鬼の風音が、子どもの頃。
半泣きになりながら『怖い』と言って俺の背の後ろに隠れてしまったあの時のことを。
……仕方ねぇなぁ、とも思ってしまったんだ。
生まれも違い。
風音が変な力を使ったので、すっかり忘れて、縁遠くなってしまったコイツが、実は血のつながった従兄弟……弟みたいなもんだったってことに。
「……抵抗しないんですか?」
俺の首を締めあげる力にあまりに無抵抗だったからか。
聞いた風音に、俺はうなづいた。
「ああ……仕方ねぇから、ついてってやろうか、と思ってな」
喉を絞められても、実際に身体は無いから、声は出る。
意識を失いかける朦朧とした中で、なんとか出した声に、風音が驚いた顔をした。
「……え?」
「ここで自分が死んだからって俺に『肝っ玉』を返しちまったら、また妖怪が怖いんだろう?
しかも、今度は現世との中間にある『中有郷』ではなく、ばっちり、しっかり異界だっていうじゃないか。
ここで突き離したら、お前。
良い大人のくせして、また泣くんじゃねぇか?」
「……力也」
「これから先……俺に……夢も希望も無いわけじゃないし。
やりたかった事もあるにはあるが、所詮、やくざな商売だ。
世間に顔向け出来る生き方をしているわけじゃなし。
何時また命(タマ)が狙われ、死ぬのなら……
お前と一緒に死んでやっても良いぜ?」
そう、本心から言った時だった。
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